第3話:彼女の家のツラい事情
その日の授業が終わり放課後。俺といつきは、すぐに学校を出た。昼休みに理事長から教えられた不登校生徒、藤咲冬馬の家に向かうためだ。彼女の住んでいる場所は隣町で、電車に乗って向かう。
「にしても、まさか不登校の生徒がいたなんてなぁ。全然知らなかったぜ」
適当に見つけた四人がけの席に向かい合って座っていたいつきに、俺は言ってみる。
「わたし、分かるよ・・・学校に行きたくない気持ち」
「そういえばお前も家にきた頃は、スゲー壁作ってたもんなー」
なんとなく明るい声で俺は答えた。--いつもはテンションが高いのに、こんな意気消沈したようないつきが、嫌だったからだ--
こいつが最初に家に来たときのことを、俺は思い出していた。親父の後ろに隠れるようにして顔を覗かせるいつき。今日からお前と一緒に暮らす、坂本いつきだ。と紹介されて、顔を俯かせるいつき。家に来て数ヶ月は、ずっと暗かった・・・・・・。
俺の精神が現実に戻ってきたのは、電車のアナウンスが隣町の駅に着くことを知らせた時だった。俺たちは電車を降り、メモに書いてある住所を目指した。
そこにあったのは、ごく普通の一軒家だった。俺は玄関のチャイムを押したが、誰も出てこない。鍵も掛かっており、中に入ることができない。さて、どうするかと頭を掻いたとき、
「おや、君たち藤咲さん家に何か用かい?」
向かいの家から、一人の老人が出てきた。老人は俺たちの格好を見て納得したようにあぁと頷くと、
「もしかして、冬馬ちゃんに会いにきたのかい?」
「え、えぇまぁそんなところです」
俺は相手に調子を合わせる様にして、話を進めた。隣りのいつきに至っては、不思議そうに首をかしげていたが、話がややこしくなるので、「とりあえず俺に話を合わせろ」と小声で言った。いつきも頷く。だが、このままおじいさんを騙したままで行くのも心が痛いので、
「俺たち、先生に頼まれて冬馬さんの様子を見に来たんです。最近ずっと学校に来てなかったので」
と真実と嘘を織り交ぜながら話す。もちろん心の中で謝罪もする。
「そうだったのかい。それは大変だね」
おじいさんはこちらの嘘に気付く事なく話してくる。
それからは冬馬の家の事を詳しく聞くため、俺たちはおじいさんの家に入ってった。
林と言うおじいさんは、俺たちを自宅の茶の間へ案内した。部屋は畳になっていたので、自分家にいるようで落ち着いた。ほどなくして三人分のお茶を持ってきてから、林さんは冬馬の家について話をしてくた。
「彼女の家とはね、昔からの仲で、よく助け合いながら生活していたんだ。冬馬ちゃんとも面識があってね、とても素直でいい子だったよ」
昔のことを思い出しながら、林さんは話を続ける。しかし段々とその声音は、暗くなっていく。
「でも最近、お母さんが亡くなってから暗い性格になっていったんだ。お父さんともうまくいってないみたいで・・・」
(なるほで、理事長の言ってた事と合ってるな)
俺は心の中で確認すると、林さんの方に軽く身を乗り出していった。
「俺たちは、冬馬さんに学校に行ってもらえるよう頼みに来たんです。でも鍵が掛かってて中に入ることもできない状況なんです。林さん、もしかしたら合鍵とか昔に預かってたりしてないですか?」
結局のところ、家の中に入らないと何も始まらない。そう考えて一応聞いてみたら、
「え?合鍵かい?ちょっと待っててね。確かいつかの日に預かってたはずだが・・・」
そんなことを呟きながら、林さんは居間をでた。それを確認したいつきはこちらの方に身体を動かして囁く。
「ねぇ、春人くん。いいの?なんかおじいさんを騙してる感じになっちゃってるけど?」
「しょうがないだろ、理事長に頼まれたんだから。このままいくしかないだろ?」
いつきと密談しながらほどなく、林さんが居間に戻ってきた。その手には一つの鍵があった。
「あったあった。ハイ、これが藤咲さん家の鍵だよ。もしもの時のために預かってたんだ」
林さんから鍵を拝借した俺は、軽くお辞儀をした。
「ありがとうございます。これで用事も済みそうです」
「いやいや、こちらこそ助かるよ。こう言う問題は同年代の人に任せた方がいいからね」
それから少し休憩をしてから、俺たちは林さんの家を出て、改めて冬馬の家に行った。こんな用事さっさと済ませておきたいところだ。
「じゃぁ、開けるぞ?」
念のためいつきに確認をとってから、俺は玄関の鍵穴に拝借した鍵を差し込んだ。
家の中を見て初めに抱いた感想は、とっても単純だった。
「おいおい、なんだよこれ?ちゃんと掃除したのか?」
「なんか、テレビでやってたゴミ屋敷みたいだね」
いつきの意見には同意せざるおえない。玄関には大きなゴミ袋がいくつも放置してあり、人が住んでるとは思えなかった。それでも俺たちは前へ進む。でないとここまで来た意味がゼロになってしまう。
「とりあえず冬馬を探さないといけないのだが・・・」
ふと何かの音が聞こえた。耳を澄ませてみると何かを叩く音も混じってる。俺たちは首を傾げつつ、音の発信源に行った。廊下を進んで突き当りの角、その扉の向こうから音は聞こえてくる。
「この中か?」
俺は恐る恐る扉を開けた。薄暗い部屋にある光源は一台のパソコン。そしてそのパソコンを陣取っていたのは、一人の少女だった。
「・・・なに、あなたたち?」
その少女は突き放すような声で、俺たちを出迎えた。
いざっくです。大分遅れて申し訳ありません。かなり短いあとがきですが、どうか本編を読んでみてください。