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第2話:少しずつ変わってきた俺の日常

 教員棟の最上階、そこに目的地である理事長室があった。だが俺は、その扉の前で立ち止まる。何のために?心を落ち着かせるためだ。そうでもしないと、この先にある光景にはとても耐えられない。

 そんな俺の心境を知らずに、いつきは平然としている。くそぅ、その安定した精神構造が心底羨ましいぜ。

「どうしたの、春人くん?入らないの?」

「なぁ、いつきよ、心の準備くらいしておいた方が身のためだぞ。ここから先、俺たちは別次元に飛ばされた感覚を味わうだろう・・・」

 そんなことをいつきに言うと、案の定いつきは、

「へぇ・・・・・・面白そう!」

 と言いながら目の前の扉を開けた。どうなっても知らないぞと言ってから、俺もいつきの後に続いた。

 俺はいつきに言った通り、別次元に飛ばされた感覚を味わった。原因はいくつかある。一つ目、部屋の中にあったのは、いかにも高級そうな机と来客用ソファー。それらの下にも豪華な絨毯が敷かれていた。それらが学校らしからぬ雰囲気を醸し出している。二つ目、それらの雰囲気をぶち壊すかのように、壁のいたるところにはアニメのポスターやグッズが、飾られていた。隅に置かれてる棚の上や中にも、プラモデルがディスプレイされている。そして三つ目、それらの物品がある部屋の窓際、理事長専用の机と椅子があるのだが、その理事長本人が一番この部屋には似合わない。似合わなさすぎる。

「やぁ久しぶりだね春人君、そしてキミが坂本いつきちゃんだね」

 理事長が軽く手を挙げて挨拶をする。そんな理事長を見て俺は、

「お久しぶりです理事長。その、なんというかスゴイ部屋ですね。個性的と言うか何というか」

「ハハハハ、まぁボクの趣味みたいなものでね。久しぶりに話す訳だし、少し驚かそうと思ってね。わざわざ校内で噂を流しといて正解だったよ」

「はあ、じゃその格好も?」

「ん?いいや、これは適当に選んだだけだよ」

 そう、問題は格好なのだ。時期外れなアロハシャツに長ズボンという、なんとも言い難い服装で、なぜかプロレスラーが使うマスクを被っていた。

「学校で一番偉い人がそんなんでいいんすか?」

 俺が半眼で呻くと、理事長は、

「まぁいいじゃないか。人には人の個性があるんだよ」

 ところで、と理事長は俺の隣にいるいつきを見て、

「さっきから彼女が一言も喋っていないんだが、大丈夫なのかい?」

 あ、と呟いて俺もいつきの方を見る。いつきはまるで今までの会話など聞こえてなかったように、呆けた顔で立っている。俺はなんだか心配になってきたので、いつきの身体を揺さぶってみる。

「おーい、いつきー?生きてるかー?返事をしろー」

 そんなことを言いながら揺さぶり続けていると、

「・・・・・・い」

 何かを小さく呟いた。はてと俺は口元に耳を寄せてみると、

「すっっごおおおおおおおおいッ!!」

 いきなりいつきが叫びだした。突然のゼロ距離攻撃に、俺は耳を塞いだ。

「いきなりどうした!?鼓膜が破れると思ったぞ!?」

 俺の文句をスルーしながら、いつきは理事長室のあちこちを見渡す。

「何ここ、ホントに学校!?すっごい面白そう!あなたが理事長ですかイイセンスしてますねあまりのすごさにこうふんするわたし!!」

 とマシンガンの様に次々と言葉を出してくるいつきに対し、おぉ、と理事長が感心したような呟きを漏らし、

「そうかい、キミも喜んでくれるかい。今まで来た生徒は何人もいたけど、みな少し引いていてね、キミみたいにはしゃいでくれた生徒は初めてだよ!」

 そう言って理事長はいつきの手を握った。そんな二人を見て俺は叫んだ。

「あぁーもう、二人とも少しは落ち着いてー!!」


 数分後、どうにか落ち着きを取り戻した部屋で、俺たちはソファーに座りながら紅茶を飲んでいた。もちろん理事長が用意してくれたものだ。その紅茶を飲み終えたところで、俺は理事長に顔を向けた。

「改めて理事長、この度はいつきをこの学校に編入させてくれて、本当にありがとうございました」

 俺が会釈すると理事長は軽く手を振りながら、

「ボクと勝吾しょうごさんの仲だ、いくらでも手伝うさ」

 そうは言ってくれたものの、今回のことに関しては本当に感謝している。さっきは「編入」と言ったが、実のところは「裏口」といっても過言ではない。それを理事長はいとも簡単にやってくれた。アッパレというしかない。ちなみに勝吾とは俺の親父の名前だ。だが、このまま終わるのもなんだか悪い気がしてならない。

「そうは言いますけど理事長に無理をさせてしまったんです。せめて何か手伝える事があれば言ってください。今はそれくらいしかできないんで」

「わたしもなにか手伝うよ理事長ー。元々わたしのためにしてくれたんだし」

 元気よく手を挙げていつきも言う。本人がそんな軽い態度だとなぁとおもっていると、

「そう言ってくれるのはボクとしても嬉しいね。じゃぁ早速頼み事をしようかな」

「何ですか?」

 俺が聞き返す。

「いや実はね、ここ数日不登校の生徒がいてね、その子を説得をしてまた学校に来るようにしてほしいんだよ」

「不登校の生徒?」

 なんだか不穏な空気になってきたなぁと思っていると、理事長が生徒について説明してくれる。

 二年生の女子生徒で名前を藤咲冬馬ふじさきとうまと言うらしい。普段は大人しい性格の子なんだが、最近になって母親が病死して、それ以来学校に来なくなってしまったという。父親とはうまくいかずに滅多に会話をしないと言う。

「それでもお父さんは心配して、彼女を学校に行くよう言ってたらしいが、彼も他界しちゃってね、いまは家で一人暮らしをしてるんだよ」

 それを聞いたいつきの肩が震えた気がした。それもそうかと俺は思った。

(いつきも独りぼっちで生きてきたんだよな・・・)

 俺の視線に気づいたいつきは、無理やり明るい声で

「大丈夫大丈夫、わたしのことは心配しないでいいよ」

「そうか・・・」

 いつきはソファーから立ち上がった。

「理事長、わたしやるよ!春人くん一緒に手伝って!」

「元は俺が言い出したことだからな、手伝わないワケないだろ?」

 理事長からその生徒の住所を聞いて、俺たちは理事長室をあとにした。住所の所に行くとしてもまだ授業が残ってる。

「とりあえず授業に出て、そのあとはこの住所の所に行ってみよう」

「賛成。じゃあ教室までもどろっか」

 そう言って俺たちは教室まで戻っていった。

 

いざっくです。2話目からいきなりのシリアス展開が漏れてきました。はてさてこれからこの物語はどうなるのでしょう?わたしにも判りません。

さて今回は新キャラクター理事長さんが登場です。理事長はこのあとからも度々登場する予定です。乞うご期待!

さぁここからは次回の予告をしていきましょう。次回の内容は謎の不登校生徒が登場!彼女が抱える問題とは!?第3話、今しばらくおまちください!

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