プロローグ
どこにでもある普通の家、取り柄があるとすれば広い事だけだろう。
そんな家の住人兼家主である俺木村春人は、現在進行形で縁側で湯呑を傾けていた。今は午前真っ只中、普段なら学校に行っているが今日は日曜だ。あぁ、なんて素晴らしい時間なんだ。こんな日だからこそおくれる時間。毎日こんな日常ならいいんだがなぁ・・・。
俺はゆっくりと目を閉じた。聴こえてくるのは小鳥のさえずり、心地よい風の流れ、そして、
ドダドダドダ!
謎の音。俺は危うく落としそうになった湯呑を救出し、音のした方を見る。
玄関へ続く廊下の先、そこに一人の少女がいた。高校生ぐらいの、セミロングの髪をしたその少女は、ビシリと人差し指を突きつけて言った。
「もう、ヒドイじゃん!さっきから呼んでたのに、一人だけお茶のんでるし!」
俺は溜め息をついた。じつのところこいつが玄関から俺を呼んでるのには気づいていた。それをあえて聞こえないようにしていたのだが、どうやら向こうからきたらしい。
こいつの名前は坂本いつき(さかもといつき)。同じくこの家に住んでいるが、全くの他人である。そんな奴とどうして一緒に住んでいるかというと・・・
「お前の日用品を運ぶのに、俺が行くのもどうかと思ってな」
いつきはムクーッと頬を膨らませると、
「ひっどーい、同居人の手伝いをするのも、家主の仕事じゃないの!?」
「まぁそうなんだろうけども、お前は親父に誘われてきたんだろ?だったら自分のことは自分でできるようになれよ」
「むー、わかったわよ!自分でやりますよ!!」
そう言っていつきは玄関へ向かって歩き出した。
正直いつきの言うこともわからなくはない。しかしいつき一人でやらせないと意味がないと思ったのだ。
そう、そうしないと意味が無いのだ。なぜなら、
「独りぼっちだったからこそ、自分自身でやらないとなぁ」
そう呟いてから、俺は再びお茶を啜った。