魔女
「ごめんなさい若久君。私この学園に来たばかりでまだ教科書揃ってないの。見せてもらってい いかな?」
「構わないよ。見易いように机を付けた方がいいな」
「そうだね。ありがと」
「ねぇねぇ若久君。学園のなかを案内して欲しいんだけどいいかな?」
「そうだな。来たばかりでわからないだろうし。案内しよう」
「ねぇねぇ若久君。お昼一緒にどうかな? ここの食堂のご飯美味しいって言ってたじゃない? 食べてみたいんだけど」
「わかった。ぜひご一緒させてもらうよ」
「・・・・・・」
「・・・・大丈夫かい立浪」
放課後俺は部室の机に突っ伏していた。
はっきり言って疲れた。ただでさえ眠い昼間の間、あの女の相手をしたことにより体力がごっそりと抜け落ちた。
「慣れないことするからだよね~」
光臣と苹華が俺を労り、笑ってからかってくるが返す元気もない。
俺てきには早く買えって寝たいのだが今は有栖を待っている。
今日は手芸部の活動の日なので談笑会にはきていない。
「しかし、その転校生も物好きだね」
「だよね。立浪君の評判を聞いても近づいてくるんでしょ?」
「あぁ、他の奴に頼めばいいのにわざわざ俺を探してきやがる」
正直言って対応を間違えた。こんなことなら普段のスタンスを崩すんじゃなかったと後悔しているところだ。
「そうだ。それじゃ今晩気晴らしに皆で出かけない?」
俺を労ってか苹華が提案してくる。そういえば最近は仕事意外で夜出歩いていないことを思い出す。
「そうだな。俺は構わないが。光臣は大丈夫なのか?」
「いやいや、この日本でみっちゃんに手をだそうなんて馬鹿はそういないてしょ? それに立浪君と有栖ちゃん、それに私もいるんだから全然問題ないでしょ?」
「おい、彼氏。彼女に守られてる気分はどうだ?」
「頼りになる彼女でいつも助かってるよ」
今の会話から分かるように光臣と苹華は付き合っており、彼女彼氏の関係だ。苹華はなかなかできた彼女で朝談の際、彼が男一人となって気まずくならないように俺を連れてくる程の良妻ぶりである。
「まぁ、僕の事は気にしなくてもいいよ。それにもしもを嗅ぎとるのに僕は必要だよね?」
「まぁ、お前がいれば全員の生存率が上がるからな」
「立浪君も参加ってことでいいんだよね? 有栖ちゃんも来るだろうし。会長はどうかな?」
「ごきげんよう皆さん。何のお話しですか?」
「ちょうど良かったです。今晩、皆で出ようと話していた所なんですよ。会長もどうですか?」
光臣の誘いに会長は目を輝かせる。
これは会長も参加だろう。
「皆さんで出られるということは今晩はあちらへ?」
「ハイ。会長も行きましょうよ♪ 今晩はみっちゃんもいますから」
「そうですね。私もご一緒させていただきましょうか?」
会長のその言葉に苹華は笑顔になって抱きつく。会長もまんざらではない表情で彼女の頭を撫でていた。
そんな二人を横目に光臣は苦笑しながらパソコンを取り出して作業を初めて、俺は有栖に今晩の予定をメールで伝える。
「会長。聞きたい事があるんですが」
その片手間に俺は会長に尋ねた。
「あの女。何者ですか?」
「あの女と云われても私にはどの女性か特定できかねますが」
小さくクスクスと笑う八代麗。そんな彼女を狂気を孕んだ冷たい視線で睨み付けるがまるでどこ吹く風のように流された。
「まぁいいでしょう」
小さく溜め息を着く。
「何かあればあの女の首を頂戴するだけですよ」
誰にも聞こえないように呟いた俺の言葉には確かな狂気が込められていた。
薄暗い室内を駆け巡る多彩の光、響く音楽に人は思い思いのステップを踏み、声を上げる。
「みっちゃんみっちゃん! 下で踊ろうよ!!」
「まぁまぁ、もうちょい待って。あと少しだから」
「兄さんと会長はいつものでいいですか?」
「久しぶりに来ましたけどやはりいいものですね」
俺達は今、とあるクラブの二階にあるVIP席にいる。
「来る度に思うのですがほんとにここのオーナーは逞しいですね」
「あはは、しょっちゅう踏み込まれて移店してるからねぇ♪」
俺達がいるこの場所はナイトクラブ“ギルティギルド”。日本にある裏側の業界では有名な違法クラブである。そんな場所に何故俺達が入れるかというと一重に会長のおかげだ。
我らが談笑会会長“八代麗”。彼女は霧ヶ咲学園理事長の娘であり、世界屈指の財閥、八代財閥会長の一人娘である。
八代財閥は裏世界での影響力も高く。俺達が身を隠すのにも協力してくれている。
その縁あって俺達はこうしてこのVIP席でくつろげるのだ。
ちなみにこの店、裏業界でも有名なので多くの犯罪者、ヤクザ、不良等が集まる。催しも、風俗法に引っ掛かるモノをやっていたりするのでしょっちゅう警察に踏み込まれているのだがその度に移店している。
「うん、今夜は大丈夫そうだね。それじゃ苹華行こうか」
「うん!」
二階のVIP席からダンスホールへと降りていった光臣と苹華の二人と入れ違いに有栖が注文したであろう飲み物と食べ物がウェイターによって運ばれてきた。それを摘まみつつ有栖はふと天井に視線を向けた。
「いつも思うんですけどオーナーは私が来る事をどこで知っているのでしょうか?」
「まぁ、オーナーですから。考えるだけ無駄かと」
視線の先にあるのは巨大な檻。天井付近に吊るされたそれは異様な雰囲気をかもしだしている。
「今日はそんな気分ではないのですが・・・」
「今日は俺がやる。正直ストレスを発散したい」
「兄さん今晩は俄然やる気ですね」
苦笑する妹に俺は席を立って歩きだす。
意気揚々と歩く俺は次の瞬間出会った人物により急激にテンションを下げられることになった。
「若久くん♪」
「・・・よし。てめぇ今からぶっ殺す。後の事はもう知らん」
後ろから抱きついてきた女。
視線を後ろに向けると金色の髪を靡かせた濁った目をしている女性。転校生、夕凪純香がいた。
夜に加えて今の俺はかなり機嫌が悪い。なにやら企んでいる会長の都合なんぞ知るか。転校生が翌日行方不明なんぞ知るか。こいつは俺と同じ殺人犯。それこそ知るか。
「・・・・」
ジャケットの内から取り出した黒いファーフェルトのソフト帽を取り出して顔が半分以上隠れるように前方を下げて深く被る。そして
「お嬢さん。今夜は私と踊って貰えるかな? 因みに拒否権はナシだ」
背負い投げのように力任せに投げ飛ばした。
かわいらしい悲鳴をあげる夕凪純香。着地するよりも早く人込みをくぐり抜け彼女に迫る。
「あは♪ やっと本性出したね!」
天地逆転した状態で狂った笑顔を見せる彼女は私に向けて三本のナイフを投げる。
「地獄より、ジェイク・リッパー。以後お見知りおき願いたい」
軽々とそれを弾いた私は彼女のみぞおちを狙って蹴りを放つ。それを彼女は両の手で防ぎその勢いを往なして背後へと着地した。
直後上がる悲鳴。背を向け会う私達を中心に半径3メートル程の円が出来上がる。
「さて、お嬢さんの名前をお聞きしようか?」
「フフ♪ 妻の顔を忘れるなんて男の風上にも置けなくってよ?」
その声の色艶、口調に私の身体は硬直する。直後、上から舞い降りてきた黒いシーツが彼女を覆い隠す。
「やっと気付いた?」
笑う彼女は黒い布を勢い良く引き剥がした。
「二年ぶりねジェイク」
菅を見せたのはまるでドレスを思わせる真っ黒い婦人服と唾が広い帽子、そして黒いヴェールが顔半分を覆った女性。
「暗い霞の中より・・・」
優雅に礼をする彼女は第一級国際指名手配、要人、裏社会の重鎮達を闇に葬った大漁殺人犯。
「・・・カスミ」
日本に属するシリアルキラーだ。