序章 異界の少年
「ごめん……ごめんな―――」
視界が光で満たされて、そして―――。
ドサッ!
「うわぁっ!?」
階段を転げ落ち腰を強かに打った。またボディのメタルに罅が入ったかもしれない。修理されるの怖いんだよなあ、と思っていると腕を誰かに掴まれた。背中もだ。
「あ、あの!変な事しないで……あ」
二人の男の人達、僕と同い年ぐらいの人と中年の人、は抱き起こし、パンッパンッと服に付いた埃を払ってくれた。
同い年ぐらいの人は長めの茶髪と鳶色の目、鍔広の帽子を被っている。中年の人は短い黒髪に黒目、鼻の下と顎によく手入れされた髭を生やしている。二人共ポケットの沢山付いたデザインの紺色のジャケットとズボンを着て、腰に丸く巻いた太いロープを携帯しているのが特徴的だ。
僕が落ちてきた?のは石造りの部屋だった。天井がとても高くて、断面が六角形の石柱が何本も立っている。
「&!%$?」
若い方の人が僕の顔を見ながら言ってくるけれど……???
「??&!%$?」
僕が答えないせいか彼も困惑した表情を浮かべて質問してくる。
「@#Z。K‘&$#%&&=………こんにちは」中年の人の最後の一言が不意に通じた。
「こ、こんにちは!あの、あなた方は一体?ここはどこなんです?エレミアは?」
「#$JYG、OP&#KR」
駄目だ。僕の方からは全然通じていないし、二人の言葉も分からない。
「TH$G。NCT!LO<TFS」
若い方の人が僕の手を掴み、指で階段とは反対の方を示した。ん?もしかして。
僕は懐に入れてあったメモ帳大の日記を取り出す。毎日の些細な楽しい事を書き留めておくために起きている間はずっと持っている。白紙に付属のペンで黒い四角とそこから出る人を簡単に書いた。
「出口?」
二人は絵をじっくり眺め、拍手してうんうんと頷きながら「出口出口」と言った。やった!絵なら通じる!
僕は自分を指差し、「クレオ・ランバート」と何度もゆっくり言った。二人はすぐに了解して「クレオ」と呼んでくれた。二人も同じように自己紹介し、若い人はアレク・ミズリー、中年の人はシルミオ・バズと名乗った。
「クレオ、出口=!。%&#$、<|」
アレクは僕の手を握り出口へと歩き出した。
二人に連れられて石の建物を出る。構造と雰囲気を見る限りではエレミアの遺跡に似ていた。しばらく草木のまばらな乾いた大地を歩き、木で出来た三階建ての小屋に連れて行かれた。周りには他にも数軒似た物があったけどそこが一番大きい。
「クレオ」
通された部屋は応接室のようだ。シルミオが前、アレクが右に座った。
二人は五分ぐらい話していた。内容は分からないがこっちをチラチラ見ていたので多分僕の事だ。
アレクが席を立ち、飲み物の入ったコップ三つと新品のノートを持って来た。飲み物は冷たくて甘く、とても美味しかった。アレクが「ココナッツジュース」とコップを指差して教えてくれる。
二人は相談しながらノートに何かを書き込んでいく。左右に丸、間に描かれた船は真ん中の矢印で右から左へ行くようだ。その船を押さえながらシルミオは僕をしきりに指差す。
「僕がこれに乗るんですか?」
通じていないようで、なおも僕を指す。
僕は再び日記を出し、船と乗っている僕(大きなVサインをしている)を描いてシルミオに見せた。彼は頷き、左の丸の上に家のような絵を描く。その中に棒人間を何人か描き、またそこを押さえて僕を指差した。僕の他にも人がいる家……そうか。多分他にも僕と同じようにエレミアから来た人がいるんだ。そして彼らが集まっている建物には船を使って行く。
僕は棒人間を「エレミア」と言いながら端から順に指差し、最後に自分を指して「エレミア」と言った。二人はおお、と唸る。アレクが「エル・ワット・ピー、エレミア」と何度も言う。恐らくこの場所でエレミアの人はそう呼ばれているんだ。
「エル・ワット・ピー、エレミア」
その後の会話で船に乗るには太陽が三回昇った後、つまり三日待たなければならないと分かった。僕は日記に自分と自分の頭に入る文字を描き、ここの言葉を覚えたいと相談してみた。