第8章:神話と複製の正体
「やっと着いたな。」
「ああ。結構長い道程だったぜ。」
魔王の神殿…紅玉の魔王が封印されていると言う場所にして、今回の私の旅の最終目的地。
ここに来るまでにダルの依頼を受けてから4日かかった。
日数はそれ程ではないにしろ、悪魔の襲撃回数が半端じゃなかった。
…100歩進む毎に襲ってくるって言うのはどういう了見よ!って言うかそんなに悪魔って多いわけ!?
…まあ、何はともあれ、最終目的地にしてラスボスの元まで来れたんだから、今のところは良しとしましょう。うん。
「さて…魔王本体が出てくるか、それとももっと別の何かが出てくるか…それは見てのお楽しみって事で。」
一歩前に足を踏み出し、神殿の中に入る。
同時に感知するのは、魔王が封印されているとは思えないほど清浄な空気。
…ここが元凶だって言うなら、もっとおどろおどろしい感じかと思ったけど…
「孤高の神の封印は、3000年経った今でも健在ってことだな。」
ディールもこの空気を感じとっているのか、心底感心したように呟いた。
「…本当にここが今回の件の元凶なの?神の寝言、見事に外れたみたいだけど。」
「だから、ご神託。どうなんだろう、まだご神託の文章の意味が完全には理解できないから…」
そう言えば。
確か、「邪を統べる者、この世を闇に満たさんとす。海に仕えし神官、死なずの者と共に世界を救う。邪の複製、死なずの者達の前に立つ。死なずの者、邪の一欠を用いて邪の複製を破壊せり。」って言う全文だっけ。
「邪の複製」って言うのが何なのか、今一つ分からないのよね。
………そう言えば…
「ダル、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「ん?何だ?」
「ディールの存在は、この神の寝言…もとい神託のどれにあたるわけ?」
この神託の中身には、ディールの存在が示されていないような…
「ダル兄さん!ルフィ姐さん!こっち!」
ディールの声のする方に向かうと、そこには…
「魔剣…?」
ダルが呟く。
そこにあったのは、台座の上に深々と突き立てられた一本の赤い剣。離れていても分かる程の禍々しい気を放っている。
「あれが、封印された魔王…?」
「いや、あれは…魔剣、ロート。紅玉の魔王の剣だ。」
私の言葉を否定したのは、意外にもディールの方だった。
薄笑いを浮かべ、ゆっくりと彼はその剣に近づく。
「ディール!?よすんだ!それは人間に扱いきれる魔剣じゃない!」
ダルが止めるべく手を伸ばす。が、まるで何かに弾かれたように大きく後ろへ吹き飛ばされた。
今のって、魔法障壁!?でもディールは何事も無かったかのようにこの部屋に入って…
「確かに、人間じゃあ扱いきれないよな。」
にやりと笑い、ディールはこちらを向き…躊躇うことなく魔剣に手を伸ばし一気に引き抜く!
神の封印が施されているはずのその剣は、随分あっさりと台座から引き抜かれ、ディールの手の中に収まった。
そう、私が認識した瞬間!私の視界いっぱいにディールの姿が映った。
……速い!
思うと同時に、左胸に鋭い痛みを感知。続いて後ろの壁に串刺しにされたことを認識する。
「ディール…あんた、何、を…!」
「うーん、さすが不死者。心臓を刺し貫かれても、生きているとは。」
な…
「ルフィが不死者だと、どうして知っているんだ、ディール!」
「ん?そりゃ知ってるさ。だって…俺が今回の『元凶』なんだから。」
な…に?
一瞬、頭が混乱する。
分かっていることは、今私は完全に串刺しにされていると言うことと、ダルが無事であること。そして…ディールが、敵であること。
「昔話をしようか。」
さらに深く剣をめり込ませながら、嬉々としてディールは話し始めた。
…私の悲鳴など、気にも留めずに。
「孤紅戦争の話の真実を教えてやるよ。神話じゃあ、孤高の神は分身を残して倒れ、紅玉の魔王は封印された、なんて事になってるが、真実はその逆さ。」
嫌な、予感がする。それと同時に何かを納得している自分がいる。
「つまり、魔王こそ分身を残して倒れ、神は逆に封印された…そういう事か。」
「そ。さっすがダル兄さん、飲み込みが早いねえ。」
くっくと笑いながら、いつもの口調でディールは話す。
「それで、『邪の複製』…なわけ、ね。」
「ん?何、ルフィ姐さん。」
「つまりは……あんたが、『邪の複製』。魔王の、分身…てことでしょ?」
神託の文章の中に、ディールの存在はきちんと示されていたってわけだ。
ただし…私たちの、敵として。
「そんな…なら、初めに出会った時点で僕らを倒せばよかったはずだ!」
「やだなあ、ダル兄さん。俺はこの剣を取り戻したかったんだよ。魔王としての力を増幅させるこの剣が、ね。」
言うと同時にずるり、と私の心臓から剣を引き抜く。
…これで、一回死亡、か。
咳込みつつ、私はディールの方を見る。
「…まあ、あんた達のことは嫌いじゃあないから…1日あげる。決めてきてくれよ。俺と戦うか、否かを。もっとも…」
顔一面に邪悪な笑みを張り付かせ、ディールは宣言した。
「どうせこの世界、壊す気なんだけど。」
……覚えているのは、そこまでだった。
次に記憶しているのは、どこかの宿で心配そうに私を見ているダルの姿。
…どうやら、失血がひどすぎて気を失っていたらしい。
「…ルフィ、明日までまだ時間がある。…ゆっくり考えるといい。」
それじゃ、と言って、ダルは部屋から出て行った。
……さて。私はどうしようかな………。