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第4章:見た目と中身の落差

「ところでルフィ、今回の黒幕は何者なんだと思う?僕は意外と魔王の内の1人じゃないかと思うんだけど。」

 街を出る前の腹ごなしに入った街の食堂で、野菜サラダを口いっぱいに頬張りながら、ダルは言った。

「…あなたがそこまで注目される存在とは思えないんだけど。ついでにナイフをこっちに向けないで。」

 野菜サラダの何にナイフを使うのよ、こいつは。

「あ、悪い。普段あまり神殿の外には出ないものだから、つい嬉しくて。」

「そりゃ、その若さでカラーローブ持ちの高位神官じゃね。かなり小さい頃から神殿にこもってないとそこまでいかないでしょ?」

「いや、僕は見た目より案外年を取ってるんだよ。」

「2000年以上生きている私から見れば若者よ。」

 にこやかなダルにつられたのか、私もつい笑顔で返してしまう。

 …何が嬉しいのか、彼は私と会ってから終始笑顔でいる。…まあ、さすがに悪魔が出てきた時は笑ってなかった気がするけど。

「でも、カラーローブ保持者って、案外魔王たちから目の敵にされているって聞いた事あるけどなあ。」

「…魔王は神とのにらみ合いで忙しいはずでしょ。人間まで相手にしてたら、神に付け入る隙を与えるようなものじゃない?」

「それもそうか…。」 

 うーんと唸り、ダルは何事か呟きだした。…ただ、その声は小さすぎて聞き取れなかったが。

「…ところでルフィ、君はどれくらい悪魔の事を知っている?」

「何よ唐突に。そうねえ…悪魔と呼ばれるほとんどが『邪悪なココロ』が具現化したもの。人間に近い姿をしている者ほどその力は強い。でもって、その悪魔の頂点に立ってるのが3大魔王と呼ばれる存在だって事くらいかしら。」

 3大神と対を成すように、魔王も3人いる。「紅玉の魔王」、「黄玉の魔王」、「蒼玉の魔王」である。地上を支配するとされる「黄玉の魔王」が一般的に有名だけど、ほかの魔王も、知らない者はいない程度には有名である。ただ、どのような能力を持っているのかが明らかなのは、「黄玉の魔王」だけという話。

「ルフィ、君の知識は一部間違ってる。魔王たちは悪魔とは違う。」

 サラダの中のセロリだけを器用によけつつ、ダルはフォークをきゅうりに突き立てながら言葉を続ける。

「悪魔は、魔王たちにとってはただの食料に過ぎない。魔王たちの食料は主に生きとし生ける物すべての『邪気』。邪気の塊である悪魔は、魔王たちにとってはうってつけの食料なんだ。」

 …………

 うあ、今とんでもなくグロい光景想像しちゃった。

「…ルフィ、君、今悪魔を頭からバリバリ食べてる魔王の図を想像しただろ?」

「う、ばれた?」

「この話をすると、大抵の人間はそう思うらしいからね。」

 皿の上には綺麗にセロリだけ残ったサラダが存在している。

 …案外器用な男ね、こいつも…

「魔王たちの『食べる』は僕たちの食べる事とは少し違う。そうだな…吸収する、と言った方が良いか。」

「食べると言うよりも飲む感覚?」

「まあ、概念的には近い。要は悪魔が魔王を恐れている本当の理由を知っておけばいいって事さ、ルフィ。」

 にっこり笑って、まるで孫に物語を語るおじいさんのように、ダルは穏やかに言った。

 …そう言えば…私、こいつに聞こうと思ってたことがあったのよね。

「じゃあダル、今度は私から質問させてもらうわ。」

「年齢とスリーサイズ以外ならなんでもどうぞ。」

「誰が聞くか!」

 この期に及んでこんなボケをかます神官なんて見たことはおろか聞いたことすらないわよ!って言うか男のスリーサイズなんて聞いて役に立つのは服屋と医者くらいのもんでしょうが!しかも私のツッコミになんかしょげてるし。

「とにかく…さっきの悪魔、あなたの事を『蒼神官』って呼んでたけど…どういう事?」

「……さあ。悪魔連中が僕につけたあだ名じゃないか?ほら、僕の本当の法衣の色って青だし。」

「いや、ほらとか言われても私それ見てないし。」

 現時点でのダルの格好は普通の神官同様、白い地に「華麗の神」に仕える者特有の青い刺繍が施されているもの。私にはその「蒼」がピンとこないのである。…まあ、確かに髪の色は青だけど、「蒼」と呼ぶにはちょっと無理あるし…

「そもそも僕、『蒼神官』って呼ばれるのは好きじゃないんだ。一応『海神官』って言う二つ名があるわけだし。」

「ふうん…」

 心底嫌そうに言うダルの言葉に、私はほんの少しだけ…違和感を覚えた。

 何が不自然という訳ではないのだけど…何かをごまかしている様な感じがする。それはこの2000年間で培われてきた勘がそう言っているのだが…何が妙なのかがわからない。

「とにかく、今回のご神託にはさ、『邪を統べる者』って言う単語が出てきているんだ。魔王絡みだと見て間違いないと思うんだけど。」

 話題を変えたいらしく、やや強引なまでにダルは話の方向を今回の黒幕…しかも魔王の方向に持っていきたいらしい。

 …まあ、嫌がることをとやかく言うのは私の趣味じゃないから、別にこれ以上突っ込む気はないけど…

「…って言うか、私、今回の神の寝言…もとい、ご神託の全内容をまだ聞いてないんだけど。」

「神の寝言って…また失礼な発言だな。」

「知ってるもの。神がいかに無力な…いえ、力があっても何もしてくれない存在だって事を。」

 苦笑を浮かべて言うダルに、私はあっさりとした表情で言い放つ。

 いくら私が神に祈っても、この体は元には戻らなかった。だから神は、何もしてくれない存在だと、私は思っている。

「それでも、すがって生きてみようとは思わないのか?」

「思わないわね。大体、自分以外の存在にすがって何とかなったって、それは実力じゃないし。すがられる方も迷惑よ。」

「そう…か。強いんだな、ルフィは。自分の力を信じている。だからきっとそんな言葉が出てくるんだろうな。」

 そういったダルの顔は、どこか寂しそうで…そして、どこか眩しそうに私を見ていた。

「…で、ルフィ曰く、『神の寝言』の全容だけど…」

「うあ、神官が神託の事を寝言て言った。」

「いや、その表現、実は結構気に入ってるんだよ、僕。」

 はははと笑いながら、自分の存在をさらりと否定するようなことをのたまう。

 こんなに神に反逆的な高位神官って、どうなんだろう…

「こんな内容なんだ。『邪を統べる者、この世を闇に満たさんとす。海に仕えし神官、死なずの者と共に世界を救う。邪の複製、死なずの者達の前に立つ。死なずの者、邪の一欠を用いて邪の複製を破壊せり。』。」

 ………冗談。まさか本当に魔王絡みの話じゃないでしょうね?

 そりゃ、私だって「銀髪の悪魔」なんて呼ばれて恐れられてるし、場合によっては第4の魔王扱いまでされている存在だけど…本物の魔王に、不死者とは言え人間の私が戦って勝てる訳無いじゃない!

 …と、待てよ…?

「ダル、今のを聞いていると…別に魔王がラスボスってわけじゃなくて、『邪の複製』とやらがラスボスなんじゃない?」

「ん…?確かに、言われてみればそうかも。でも、『邪の複製』って一体…?」

 うーむと考え込むダルの顔をのぞきつつ、私はつい声に出して聞いてみた。

「わかりそう?」

「無理。」

 ………即答!?

「あなた神官でしょ!?それ位は理解できないでどうするのよ!」

「はじめて聞く表現を理解しろと言う方が無理だ。僕だって万能じゃないんだよ、ルフィ。」

 うわ、開き直りやがったし、こいつ。しかも何か爽やかな笑みを浮かべてるし!

「とにかく、何とかなるさ。…僕って生まれついてのトラブルメーカーだから、一緒にいればきっと向こうから色々問題が出てきてくれるって。」

 爽やかフェイスのまま、とんでもない事をさらりとぬかし…ダルはそそくさと店を出る。

 ………野郎…勘定私に払わせたわね……

 セロリの山と伝票が、私の目の前に置かれていた…。

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