Episode:97
◇Tasha side
ふと目が覚めた。
(……何時ですかね?)
時計を探りながら考える。ただ窓の外を見る限り、いい加減日も暮れた頃のようだ。
タシュアは普段ならこんな時間に寝たりしない。夜更かしはするが、基本的に昼は起きている。
ただ、夕べは任務でほぼ徹夜だった。そして午前中までかけて事後処理も終わらせ、やっと学院へ戻ってきたのだ。そんな状況で、周囲に合わせて夜まで起きている趣味はなかった。
起き上がる。
(どうしますか……)
起き抜けなのもあって、もう少しだけ待ってから何か食べたい気がした。
なんとはなしに魔視鏡を立ち上げる。
(何か来ていますかね?)
昨今は魔視鏡のネットワーク網の発達が著しく、新しい魔令譜のお知らせなどが、登録をしておけば来るようになっている。
その中には稀にだが興味深いものが混じっているため、タシュアはチェックを欠かさなかった。
いつもどおりの手順で進めていく。が、今日は同じように行かなかった。どれだけ待っても、学外のネットワークに繋がらない。
何かのエラーかと立ったまま2、3度命令を出しなおしてみたが、結果は同じだった。
(……ふむ)
机の前に座って、本格的に操作を始める。
(こちらの経路は生きていますね)
寮内は問題ないようだ。
そのままひとつひとつ確かめていくと、ネットワークが生きているのは学内だけで、そこから外へが繋がらなかった。
(これはどうにもなりませんか)
学内では問題がないところを見ると、自分の魔視鏡の問題ではないだろう。おそらくは学院と外とを繋ぐ、高位通話石の異常だ。さすがにその修理は、タシュアの手には余った。
魔視鏡は一旦諦めて、少し考える。
高位通話石は今や通信の要だ。何かの連絡をするときに、これを使わないということは殆どない。
逆に言うとそれほど重要なため、複製を作り2つか3つセットで置くのが一般的だった。そうすればイザというとき、他が肩代わりできる。
もちろん学院もこの仕様だ。なのに今は、そのバックアップさえも動いてない。異常事態と考えていいだろう。
(何が起こりましたかねぇ)
念のために大剣を手にし、寮の外へ出てみる。