Episode:92
「さ、行こう」
先生に促されて後ろをついていく。
俺たちはずいぶん警戒しながら来たのに、先生はどっかへ散歩行くみたいな感じだ。そんだけ慣れてるんだなと思った。
と、先生が立ち止まる。
どうしたのか訊こうと思ったけど、そんな雰囲気じゃない。だから俺もヴィオレイも黙って先生の後ろに立ってた。
そうやってワケもわかんないまま時間が過ぎた後。いきなり前のほうでうめき声が上がる。
「残ってた教官が居たみたいだね」
「残ってた……」
しばらく頭の中で考えてて、言葉の意味を知る。ようするに教官相手の実戦だ。
「まぁ不意打ちだからね、こちらに被害はないよ。あの教官も気絶してるだけだろうしね」
そこまで言って先生がため息をついた。
「それにしても、昨今の教官たちはどうにもねぇ……副学院長が人事権を使って勝手に入れ替え始めてから、本当にレベルの低下が激しい」
「え、そうだったんですか?」
初耳だ。というか俺なんて、全く気づかなかった。
まぁたしかにここ2年くらい人気のあった教官が居なくなって、嫌な感じの教官が増えてはいたけど……。
「正直、わざとそういう者だけ採用しているのかと思ったほどだよ。いや、本当にわざとやっていたのかもしれないが。それにしてもだ、武器の扱いひとつ取っても、まず私が教えなければならないような者ばかり――」
先生の話は終わりそうになかった。かなりストレス溜まってたらしい。
「だいたい、通り一遍の訓練を受けてちょっと実戦を経験した程度で、シエラで教えられるわけがないだろうに。いやそれでも下級生なら可能だろうが、上級生、わけても上級隊に何か教えるなどどだいムリだ。おかげで私のスケジュールときたら、朝から晩までびっちりときた。何もかもあいつらの尻拭いだ」
「せ、先生……」
カーコフ先生、こんな性格だったなんて知らなかった。
先生の話はまだ続いてる。
「何よりも腹立たしいのは、こうやって私が尻拭いをしているというのに、それを連中が何とも思わないことだ。いや、別に私を持ち上げろと言うわけじゃない。せめて悔しいと思って学べばいいものを、何もしないで済むのは楽でいいと思っている。向上心のカケラもない。子供たちのほうがよほどマシだ。なのに教える側だとふんぞり返っているのだから、救いようがない」
当分、続きそうだ。
「だいたい、教官ともあろうものが幾ら不意打ちとは言え、生徒に倒されてどうする。これで教えようというのだから、笑うしかない」
「あ、あの……」
「しかもだな、あいつらときたら――あぁすまん、何の話だったかな?」
やっと先生が正気に戻った。