Episode:90
「こ、子供たちの状況は……」
「講堂に集められてるという以外、情報は無い。また学院長の安否は不明だ」
波の音だけが響いた。
「あの、それって……」
先輩のひきつった声を、先生が遮った。
「まだ何も分からんのでね、何とも言えないよ」
「そ、そうですね」
さすがに上級隊の先輩たちも、こんな事態は考えたこともなかったみたいだ。かなり動揺してる。
先生だけが、落ち着き払った声で命令した。
「これより、上級生は全員本島に帰還する。またそれに先立って、上級隊は船着場にて船を確保する。戦闘になる可能性もあるので、警戒を怠るな」
「はいっ!」
先輩達の声が揃う。
先生が続けた。
「本来ならきちんと作戦を立てるところだが、その時間はない。各分隊毎に行動し、臨機応変に対処するように。なお交戦となった場合、手加減は無用だ。それから第1班は別行動とする」
「了解」
先輩たちが動き出す。
「先生、俺たちは?」
「他の上級生と一緒に、船で帰りなさい。さすがに実戦は危なすぎる」
「はい……」
先生の言ってることは正しいけど、なんだか物足りない。せっかくここまで頑張って来たのに、最後はまるで留守番だ。
けどそんな俺たちを見て、先生は笑い出した。
「いやいや、おもしろいな。うん、可愛い可愛い」
「何がですか……」
女子なら喜ぶんだろうけど、男子の俺が男の先生に可愛いとか言われたって、ちっとも面白くない。
なのに先生、俺の答えまでもが面白かったらしくて、余計に笑ってる。
「先生!」
「あぁいやいや、うん、悪かった。君たちには実は仕事があるよ」
思いもかけないことを先生が口にした。
「ホントですか?!」
「ああ。こんなところでウソを言っても始まらないしね。君たちには、乗ってきた船までの案内を頼みたいんだ――第1班!」
先生が残ってた上級隊を呼ぶ。