Episode:89
「あるのか? ……あぁ、君たちが来た船か。どこにあるんだい?」
「えーっと……」
どう説明しようか考える。
「あぁ、場所が分からないのか。ほら、この地図を使いなさい。今居る場所はここ、君たちが教官を見たっていう船着場がここだ」
先生がひとつひとつ、指を指して教えてくれた。
「で、どこから来たんだい?」
「えっと、この船着場まで続く砂浜を、ずーっと北から……」
「ほう、ずいぶん歩いたねぇ。大したもんだ」
先生が感心する。
「で、その船は隠してきたかい?」
「え? あ、そのまま……」
そういえば砂浜に乗り上げて、何もしないで放置だ。これじゃ教官たちに見つかったかもしれない。
でも先生は怒らなかった。
「今度からきちんと偽装しなさい。でないと、イザと言うときに使えないからね」
「はい」
俺も、今度からは言われなくてもやると思う。
「で、どのくらいの大きさかな?」
「えぇと、手漕ぎで、何人か乗れるくらいかな……」
先生が少しだけがっかりした顔になった。きっと、もっと大きい船だと思ったんだろう。けどすぐ表情を元に戻して言う。
「手漕ぎというところが気になるが、少なくとも上級隊を何人かは返せるな。そうすれば、向こうから迎えの船が出せるか」
先生、もう先の先まで考えてるみたいだ。
そこへ上級隊の先輩たちが戻ってきた。
「集合しました」
「ご苦労」
ずらりと並ぶ先輩たちは、素直にカッコいい。
「先生、状況が変わったようですが」
「実はそうなんだ。どうも本島で、低学年が人質にされているらしい」
ざわっと先輩たちの間に動揺が走った。
中心らしい先輩――隣はルーフェイアとよく居るシルファ先輩だけど、こっちは誰だろう――が訊く。
「詳しい説明を頂きたいのですが」
先生がもったいぶって頷いた。
「副学院長が、学院長に対して反旗を翻してね。それで低学年が講堂に集められて、人質になってるそうだ」
質問した先輩が絶句した。他の先輩たちもみんな息を呑んでる。