Episode:88
「だいぶ厄介な事態になってるねぇ」
「はい……」
だいいちそうじゃなかったら、俺たちこんなとこまで漕ぎ渡って来てない。
「ともかく手を打たないとだな。まずは演習を中止して生徒を帰すか。他の教官たちに気づかれると面倒だが……」
「あ、先生、それなんですけど」
砂浜でのことを思い出して言う。
「教官たち、なんか船着場で船に集まってました」
「……それは困ったな」
あんまり困ってなさそうな口調で先生が言う。
「先生、急がないとヤバくないですか? あの教官たちが反乱に加わったら、低学年とかタダじゃ済まないです」
「だろうねぇ。まぁその代わり、上級生への連絡は楽だろうが。ともかく本陣へ行こう」
言って先生が歩き出した。
俺らもついてく。
「あ、先生、いいところに」
女の先輩がひとり、こっちへ走ってきた。
「病人が出たんですけど、なんか他の教官が見つからなくて」
「だろうねぇ。みんな本島へ帰ってしまったらしいから」
「え?」
先生の言葉に、先輩が怪訝そうな顔をした。
「今、演習中ですが」
「私もそう思ってるよ。だが他の教官には違ったらしい」
そこで先生が急に姿勢を正して、命令口調になった。
「演習島で訓練中の全生徒に口頭で伝達。演習は直ちに中止、点呼後、全員船着場へ集合。また東隊の上級隊は伝達に加わらず、各自速やかに本陣へ集合!」
「了解」
理由なんてまったく訊こうとしないで、先輩が敬礼をして走り去る。
これが傭兵隊なんだ、と思った。四の五の言ってないで命令に従う、そういうところだと思い知る。
「センセ、これからどうするんです?」
好奇心いっぱいってふうにヴィオレイが訊いた。
先生がのんびりと答える。
「実際には集まった上級隊の顔ぶれ次第だろうか……とりあえずあの連中の帰島は、可能な限り阻止したいねぇ。あと万が一教官たちが帰島していた場合に備えて、船の確保だな」
「あ、船ならあります」
俺は答えた。