Episode:87
「さ、早くしなさい」
カーコフ先生が油断なく構えながら言う。
こっちへ視線を走らせたヴィオレイと一瞬目が合って、俺は頷いた。
2人同時に走り出す。
「ま、待てっ!」
ヴィオレイに追いすがろうとした教官の近くへ飛び出す。
「なんだっ?!」
予想してなかったんだろう、教官の動きが一瞬止まった。そこへカーコフ先生の蹴りが決まる。
「センセ、ナイス!」
「予定と違うんだがねぇ」
またすっとぼけた口調で先生が言った。
「私の予定じゃ、私がここで存分に大立ち回りして、その間に君たちがどっかへ行くはずだったんだが。これじゃつまらんなぁ」
さりげに先生、怖いこと言ってるし。
「で、ヴィオレイにアーマル、さっき言ったことは本当なのかな?」
「ホントです、じゃなきゃ俺たち、わざわざ演習島まで来ません」
「だろうな。――やれやれ」
どういうわけか先生がため息ついた。
もしかして俺たち、減点とかされるんだろか? それだと俺は成績悪いから、メッチャクチャにヤバイ。
けど先生の言葉は俺の予想とはぜんぜん違った。
「副学院長がもしかしたら、とは思っていたが、本当にやるとはねぇ」
「先生、知ってたんですか?」
驚いて訊くと、先生は頷いた。
「知ってたというか、一応予測の中にあった程度だがね。でもまさか、やるとは思わなかったねぇ」
「すご……」
そういうのを把握してる辺り、さすがカーコフ先生だ。
けど先生自身はそう思ってないらしい。
「すごかったら、今回のことも未然に止めてるだろうねぇ。だからすごくないな。――で、出来たらいろいろ聞かせて欲しいんだが」
「はい」
俺たちは話し出した。
ルーフェイアが居なくなったこと、みんなで探してて講堂に入れられずに済んだこと、イマドが教官たちを引っ張りまわしてること、ルーフェイアは噂の地下牢に閉じ込められてたこと、そして俺たちは船着場のおじさんに教えられて、隠してあった船でここへ来たこと……。
先生が腕組みして考え込む。