Episode:86
とっさに手近な草むらに身を隠す。
「低学年か。どこから入り込んだ」
そっと見ると、教官だった。服装が違うからすぐ分かる。
「言え!」
「デルピスに連れてきてもらいました」
「はぁ?」
暗いし遠いから表情は見えないけど、教官が呆れたような声を出した。というかたぶん、心底呆れてると思う。
「何がデルピスだ、赤ん坊の与太話じゃあるまいし。本当のことを言え」
「ホントですよぉ、デルピスです」
ヴィオレイ、どうも開き直ったらしい。
「教官なのに、生徒の言うこと信じないんですか? ひっでー!」
「信じて欲しければ、もう少しまともな嘘をつけ!」
「だから嘘じゃないですってば!」
大声でヴィオレイが騒ぐ。
「ホントにホントなんですよ。デルピスがこうざっぱーんって飛んで、僕たち引っ張ってきてくれたんですってばー!」
普段の言動からじゃ想像つかないけど、開き直ったヴィオレイはかなり厄介だ。ミル並みに扱いづらくなる。
「あー、教官、信じてませんね?! 生徒がホントのこと一生懸命訴えてるのに、それ信じてくれないなんて! ひどいっ、ひどすぎるっ! これじゃ何言ったってダメじゃないかーっ!」
「こ、こら、少し静かに……」
慌てた教官が止めたけど、ちょっと遅かったらしい。
「何ですかな、やけに騒がしいですが」
聞こえた別の声に、思わず自分がにやけるのが分かった。この声、カーコフ先生だ。あの先生はいつだって俺らの味方だ。
ヴィオレイが声を張り上げた。
「先生、副学院長が反乱起こして、低学年人質にしてます!!」
「黙れっ!」
怒った教官がヴィオレイを殴り飛ばした。
そしてほぼ同時にこの教官も投げ飛ばされる。
「そういう理由で殴るのは感心しませんなぁ」
教官を投げ飛ばしたカーコフ先生が、すっとぼけた口調で言った。
「自分がやられればほら、アンタも嫌でしょう?」
「この裏切り者が……」
「裏切り者? 何ですかそれは。そもそも裏切るものがありませんなぁ――ほらヴィオレイ、行きなさい。どこだか知らないが、何かすることがあってここへ来たんだろう?」
「は、はい!」
ヴィオレイが立ち上がった。
今のカーコフ先生の台詞からしても、反乱起こした教官以外は何が起こってるか知らない。だからまず、知らせないとだ。
教官が起き上がりながら通話石に何か言った。仲間を集めてるんだろう。