Episode:80
「やっとお客さんか! ほら、食べていきなさい」
「――え?」
何か予想と違う方向へ話が転がる。
「あの、あたし、そういうわけじゃ……」
「何言ってんだ、食べ盛りじゃないか」
話を聞いてないし。
「何がいいかな、アンタたしか、さっぱりしたものが好きだったね」
「え、ご存知……なんですか?」
あたしなんて、たくさん居る生徒の中の一人だ。だからそんな細かいところまで見てるなんて、まったく思わなかった。
けど厨房のおじさんは当たり前、という顔でお皿に料理を盛り始める。
「毎日生徒の顔見てるんだ、そのくらい調理人として覚えて当然だよ。特にアンタは可愛くて目立つしね」
「そう、なんですか……」
あたしが目立つっていうのは分かるけど、可愛いと目立つっていうのがよく分からない。
悩んでいたら、目の前にお皿が出された。
「ほら、食べなさい。お腹すいただろう?」
「あの、たしかにそうなんですけど、それだけじゃなくて……」
慌てて言うと、厨房のおじさんが不思議そうな顔になる。
「この料理だけじゃダメなのかい?」
「えっと、そういうのでもなくて」
どうしてあたし、いつも上手く説明できないんだろう?
でもここには助けてくれる人が居なそうだから、必死に自分で説明してみる。
「その、隣の診療所に、先生と後輩が居て。食べるものがないんです」
「なるほど、隣に夕食か! それは気づかなかった、すぐ持っていこう」
「え、あ、待ってください」
このおじさん、悪い人じゃないけど、料理以外は何も考えてない感じだ。
「なんだい、夕食がないって今アンタが言ったじゃないか」
「いえ、そうなんですけど、外、今危なくて……」
あたしの下手な説明に、おじさんはじめ厨房の人たちが首をかしげた。
「なんで外が危ないんだい?」
「その、学院内で今、分派騒動になってるみたいで……」
あたしが聞いた話を、大雑把に伝えていく。
「なんだい、じゃぁ生徒が来ないのは、教官たちが閉じ込めちまったから、ってことかい?」
「確認はしてませんけど、たぶんそうだと思います」
講堂に生徒のほとんどが監禁状態なのは確かだ。そしてその状態で食堂へ夕食を食べになんて、許可されるわけがない。