Episode:79
少し間があってから先生が言う。
「ルーフェイア、確かにあなたの言うとおりね。納得行かないけど」
「……すみません」
その必要はないのだけど、なんだか申し訳ない気がして謝る。
「あら、いいのよ。私がこういうときに役に立たないのは本当だし。そうしたら、急いで隣の食堂まで行ってきてもらえる?」
「はい」
お茶を急いで飲み終えて、あたしは立ち上がった。
先生が部屋の奥を見ながら言う。
「ドアから出て行ってもいいけど、奥の通気窓のほうがいいかもしれないわ。どっちでも、あなたの判断で使ってちょうだい」
「分かりました」
ざっと装備を確認して、通気窓のほうへ向かう。ドアは出入りはしやすいけど、見つかり易いのが難点だ。その点裏手にある通気窓は出入りはちょっと面倒だけど、まず見つかる心配はない。
小さな窓に身を寄せて外の様子を伺ったけど、何の気配もなかった。大丈夫そうだ。
うつぶせになって急いで足から外へ出る。そしてそのまま、食堂の裏手に走りこんだ。
――いい匂い。
中じゃ夕食が出来てるらしい。
まさか表の入り口へは行けないから、裏の勝手口に手をかける。ドアノブをそっと動してみると、忙しい時間帯のせいか鍵はかかってなかった。
ほんの少しだけ扉を開けて、急いで中へ滑り込む。
真っ暗だった外と違って、厨房は魔光灯が幾つも付けられてた。そして出来上がった山盛りの料理を目の前にして、何人もの調理人さんたちが難しい顔で話してる。
棚の影に隠れて、あたしは聞き耳を立てた。
「まったく、今日はどうなってんだい、誰も食べに来ないなんて」
「教官の話じゃ緊急の集会だってけど……時間がかかりすぎだよ、料理が冷めちまう」
どうも、誰も食べに来てないらしい。だとするとみんな講堂へ集められてから、何も食べてないってことになる。
どっちにしてもこの会話だと、真相は知らされてないみたいだ。
あたしは棚の陰から出て、料理人さんたちに近づいた。
「あの……」
「うわっ、どこから!?」
なんだかすごくびっくりされる。
「あの、すみません、えっと……」
けどあたしが何か言うより早く、やたらと高さのある白い帽子――なんでこんなに高いんだろう――をかぶったおじさんが口を開いた。