Episode:78
「でも、何も理由が無かったら収監できないでしょう?」
「一応、麻薬所持って……でも痛み止め用で、許可ももらってますし……」
「あぁそうね。確かにあなた持ってるって、学院長から聞いてるわ。普通の痛み止めがなかなか効かないから、許可してあるって」
やっぱりこの話、ちゃんと教官たちには伝わってるみたいだ。だとしたら予想通り、言いがかりってことになる。
――絶対に文句言おう。
こんなことをされるんじゃ、許可の意味が無い。
先生も同じ考えみたいで、ぶつぶつ言いながら手を動かしている。
「まったく。副学院長ときたら自分たちで『あの子の件は全員覚えておくように』とか言ってたくせに、何がしたいのかしら」
お茶を淹れてるみたいで、診療所にいい匂いが広がった。
「だいいちここは曲がりなりにも学校。いちばん先にするのは、子供たちを育てることなのに――はいどうぞ。ニネット、あなたもね」
出されたカップの中で、透き通った瑪瑙色が揺れていた。香りがいいから、きっとどこか有名な産地のお茶だろう。
「ありがとうございます、いただきます」
「いえいえ。ずっと閉じ込められてたんじゃ、お腹すいたでしょ? ごめんなさいね、こんなものしか用意できなくて。食堂が隣なもんだから、診療所の中にはあんまり食べ物用意してないのよ」
先生の言葉に、だからさっきの押し問答だったのかと思った。具合の悪い生徒を預かってるのに食べさせるものがないんじゃ、先生としては居ても立っても居られなかっただろう。
聞いてみる。
「そしたら……これから、取りに行きますか?」
「そうね、お茶飲んだら行きましょうか。何か夕食と、出来たら明日の朝食だけでも確保しないと」
先生の言うとおりだ。どうしても調達できないなら仕方ないけど、可能なら、特に見通しのつかないときは食べておくに限る。
ただ、あたしは先生も行くのは反対だった。
「先生、食堂へはあたしが行きます。危険ですから」
先生はいわゆるふつうの医者で、医務官でさえない。だから武器を扱うとかそういう人を相手にするとかは、全く出来ない人だ。なのにこんな混乱した状況の中へ出て行くのは、自殺行為だろう。
「でも、生徒に行かせるなんてできないわよ」
先生の反論にあたしは首を振る。
「あたしのほうが、訓練を受けて慣れてます。何かあったときも、あたしだけなら対処できます」
イマドやシルファ先輩、タシュア先輩レベルならいいのだけど、同行者は大抵あたしの行動を制限することになる。ましてや素人の先生じゃ、申し訳ないけど足手まといだった。