Episode:76
この教官も後手にして縛り上げて、魔法で軽くした。
「どうするの?」
「その辺に置いてきます」
本当は他の教官と一緒に船の中に置き去りにすればいいんだろうけど、距離を考えるとちょっと無理だ。
少し考えて、向かいの図書館の裏へ持っていく。
図書館の建物の裏手は、壁ギリギリまで茂みだ。その影へ適当に押し込んだ。
――全部片付いたら、迎えに来ないとダメかも。
こんな場所だと、捜索隊が組まれても見つからないかもしれない。けど他の教官に放置したことを知らせると、大目玉くらいそうだし……。
ちょっと困ったなと思いながら、あたしは眠ってる教官を置き去りにして戻った。目が覚めたら自力で道路まで這い出してくる可能性もあるし、今考えなくてもたぶん大丈夫だろう。
「大丈夫?」
診療所まで戻ると、ムアカ先生が心配そうに入り口で待ってた。
「先生、中へ。見つかります」
「え? あ、そうね。ごめんなさい」
あたしの言葉に慌てて先生がドアを開けて、2人で建物の中へ入る。
「わ、もしかしてルーフェイア先輩?!」
部屋のベッドには、見知らぬ下級生が寝ていた。
そしてあたしを見て、ベッドの上で慌てて背筋を伸ばす。
「あの、えっと、あたし、ニネットって言います! その、リティーナの友達で……って先輩リティーナ知りませんよね……」
なんだかよく分からないけどずいぶん緊張してるみたいで、言ってることがメチャクチャだ。
けど、イヤだとは思わなかった。むしろ見ていて可愛い。
「えぇと、ニネット? もしかして4年生?」
イマドが、リティーナという4年生の子のことを話していたのを思い出して、そう訊いてみる。
女の子が手を叩いた。
「先輩すごい! そうです、4年生です!」
あてずっぽうのどこが凄いのか分からないけど、喜んでもらえたみたいだ。
ムアカ先生が可笑しそうに笑いながら言う。
「良かったわねー、ニネット。憧れの先輩と話が出来て」
「はい!」
何が憧れなのか不思議に思いながら、でもあたしは何も言わなかった。せっかく嬉しそうにしてるのに、水を差したら可哀想だ。
「もうニネット幸せですぅ。そうだ、明日みんなに自慢しなくちゃ!」
「え……」
なんであたしと話しただけで、友達に自慢するんだろう?
けど首をかしげてる間にも、どんどん話が進んでいく。