Episode74
船着場のおじさん情報じゃ、診療所はあたしたち生徒と敵対関係じゃないらしい。だから行ってみる価値はあるだろう。
もちろん、罠って可能性はある。けどそうなっても相手は教官だけで人数が限られてるから、その気で準備してれば逃げられるだろう。
船着場からの坂道を上がっていく。用心しながら進んだけど、こっちへ来る人は居なかった。
あたしが逃げ出したのはバレてるし、さっき教官たちが来てたくらいだから、ここに居るのは分かってるはずだ。
なのに誰も来ないってことは、さっきの5人で十分だと思ってたんだろうか?
なんだか複雑だった。数が少ないのは助かるけど、自分が舐められてるみたいでちょっと納得が行かない。
ただ他に誰も来ないのは、まだ捕獲隊が壊滅したのを知らないだけっていうのも十分ありえた。だから捕まえられなかったと分かれば、今度は人数を倍にして追ってくるだろう。
ともかく今のうちに、この坂を抜けるに限る。
結局最後まで出会わないまま――出会ったら困るけど――あたしは坂を昇りきった。
すぐに横へそれて、一旦脇の茂みに隠れる。これ以上面倒なことに巻き込まれたくない。
見上げた管理棟は、あちこちの窓から明るい光が伸びてる。
ただ、点いている部屋の数が少ない。どうもみんな、あたしやイマドを捕まえに教室を出てるみたいだ。
――そういえば、教官って何人残ってるんだろう?
ふと気になった。
シエラは生徒の数が多いだけあって、教官の数も多い。確かこの本校も、全部で100人くらい居たはずだ。けどそのうちの何人が演習島へ行ってるかは、参加してないあたしは知らなかった。
まさか9割が行ったってことはないだろうけど、9割ここへ残ってるとも思えない。そうすると妥当なとこで、4~6割の40~60人だろうか?
ただけっこう多く残ってたとしても、教官たちはそれぞれ専門が違う。そういう意味ではつけ込む隙は十分だ。
実技専門の教官はもちろんいちばん数は多いけど、それでも確か三分の一くらいだ。そして戦術専門の教官たちと一緒に半分くらいは演習島へ行ってるはずだから、多くても本島には20人くらいしかいないだろう。
うち5人はさっき縛り上げたから、残りは10人ちょっとだろうか? でも更に何人かはイマドを追い掛け回してそうだから、手が空いてるのは5~6人な気がする。
どっちにしても大丈夫そうなら一旦診療所へ入れてもらって体制を整えなおして、それから出たかった。
管理棟を避けながら回りこむようにして、診療所の裏手へ出る。ここも明かりが点いてるから、少なくとも誰か居るんだろう。
どこから入ろうかとコソコソ見て歩いてるうち、裏のほうの通気窓が開いてるのを見つけた。ここから入れそうだ。




