Episode:73
『ルーフェイア=グレイス、脱獄しています』
これには言い返したくなったけど、頑張ってガマンした。けど脱獄も何も、言いがかりで収監したのだから、謝ってから外へ出すのが筋じゃないだろうか?
絶対あとで文句言おうと思いながら、会話を聞き続ける。
イマドの居場所は、よく分かってないみたいだった。さっきから「やられた」という報告ばかりで、行くともぬけの殻らしい。
――今度教えてもらおう。
イマドの隠密と霍乱、それに逃走は、あたしでもかなわないところだ。だから素直に教えてもらうべきだろう。
ただイマドの場合他人の考えてることがかなり読めるから、それを利用してるだけって気もするけど……。
『学院長、まだ見つかりません』
入ってきた情報にはっとする。
今回の一連の騒ぎで、どうも学院長はキーマンらしい。だからその居場所を裏切り組みの教官たち、必死になって探してるんだろう。
会話はまだ続いていた。
『秘密の場所とやらじゃなかったのか?』
『先ほど向かいましたが、既に誰も居ませんでした』
教官たち、秘密の場所がどこか知ってただろうか……? ただどちらにしても、学院長がつかまってないのは確かだ。
どうやったら合流できるだろう、それを考えながら、あたしは通話石の会話を聞くのを一旦打ち切った。
船着場のおじさんが海の向こうを見ながら言う。
「夜中を目安に、戻ってくるらしい。そうなったら本当に身動きが取れんな」
貴重な情報だ。ある程度これを考慮に入れながら、動いたほうがいいだろう。
「やれやれ。何か妨害できればいいんだが、この手足ではなぁ。まぁ、ゆっくり考えてみるか」
言いながらおじさんは片足を引きずって小屋へ戻った。
そっと隠れていた場所から出る。
――どうしよう。
時間が限られてるだけに、ここでとった選択肢が後々致命傷になりかねない。だからよく考えてみる必要がある。
やったほうが良さそうなことは、学院長との合流、イマドか他のAクラスとの合流、それに講堂に集められてる子たちの開放だろう。
この中で最重要は、間違いなく低学年の解放だ。
ただ、あたし1人でやれるとは思えなかった。中にはたくさん教官が居るわけで、その人たちが思い余って手榴弾でも使おうものなら、大変な被害が出る。
もう少し考えて、あたしはまず診療所へ行ってみることにした。