Episode:71
「で、何が起こってるか教えて頂けるんですか?」
あたしがもう一歩詰め寄ると、教官の顔が更に引きつって、笑ってるみたいになる。
もっともあたし自身は、たぶん教えてもらえないだろうと思ってた。シエラ本校の教官ともあろうものが、簡単に口を割るようじゃ困る。
「だ、だから麻薬の――」
全部訊く前に後ろへ回って、この教官を昏倒させた。今は同じ説明を二度も聞いてられるほど、時間が余ってない。
昏倒した教官5人は、なんだか寝顔が気持ち良さそうだった。
――疲れたかも。
ため息をついてから、教官たちを拘束にかかる。ただきちんとした拘束具やロープがあるわけじゃないから、ポーチから魔法で強化された細い紐を取り出して、一人一人急いで後ろ手に縛る。それから魔法で軽くして、2人ずつ船着場へ持っていった。
使おうと思ったのは船だ。
本当はあたしが入ってたような牢に入れるのがいいけど、さすがにそんな暇はない。かといってここで見張りをしてるわけにもいかない。
だから船に教官たちを放り込んで、時間稼ぎするつもりだった。後ろ手に縛った上で船の中に転がしておけば、目が覚めてもすぐには脱出できないだろう。
船着場には連絡艇と、もっと小さいボートとがあった。
小屋の様子を伺いながら、ボートのほうへ近づく。と、ドアが開いた。
とっさに身を隠す。
「……おや、いい気味だ」
出てきた船着場のおじさんは教官たちを見てそう言っただけで、拘束を解こうとしなかった。
「誰がやったのか知らないが、たいしたもんだ。まぁここはシエラだからな。下級生だからって侮るからこうなる」
ずいぶん大きな声だ。とても独り言には思えない。
「まったく、副学院長も何を考えてるんだか。このシエラを乗っ取ろうなんて、簡単じゃないことくらい分かってるだろうに」
どうもこの人、あたしに話を聞かせようとしてるらしい。これをやったのがあたしだとは、おじさんもさすがに分かってないだろうけど、生徒の誰かだってことは見当がついたんだろう。
「そもそも学院長の変更は、勝手には出来ん。ただ名乗ってもダメだ。そんなことも知らずにこんなことを起こすんだから、無知の極みだな」
だいたいの状況が飲み込めてくる。
どうもあたしが牢に入れられてから、学院内で騒動になってるみたいだ。というか騒動を起こしたかったから、まずあたしを言いがかりで収監したんだろう。
「演習島へ2人ほど連絡に行ってくれたが、上手く伝わるかどうか……おかしな教官に見つからないといいんだが」
誰だかわからないけど、もうこっそり知らせに行った人もいるらしい。
ただ、アテには出来ないなと思った。おじさんが言ってる通り、まず敵対してる教官に見つかる可能性がある。そうなったら捕まって、演習島の先輩たちは知らないままだろう。




