Episode:70
走りながら太刀を抜く。
教官の数は予想より少なくて5人だけ。どうとでもなる数だ。
「と、止まれ!」
スピードを落とさないあたしに焦ったんだろう、教官が上ずった声で命令してきた。
そこへ真っ直ぐ突っ込む。
「こ、この!」
広げられた網――これじゃホントに動物扱い――を潜り抜けると見せかけて横飛び、網を持っていた教官の手を峰で強く叩く。
悲鳴が上がって網の片側が地面に落ちた。
「きさま――」
別の教官が覆いかぶさって捕まえようとしてくる。それを身体を入れ替えてかわして、首筋を峰打ち。
そうしてる間にもあたしを突破させまいと、教官が2人、前から迫ってきた。
「トォーノ・センテンツァ!」
雷撃が足元に炸裂して、教官たちの動きが一瞬止まる。そこへ踊りこんだ。
近いほうの教官の鳩尾へ、太刀の柄を突き入れる。更にもうひとりをしゃがんでかわして、たららを踏んだ教官の腕を掴んだ。
そのまま勢いを利用して投げ飛ばし、教官たちがひるんだところで呪文を放つ。
「ゼーレ・シュラフ!」
眠りの魔法が周囲に広がって、教官たちが次々と倒れた。
――残るは1人。
さっき手首を強打した痛みで、あんまり魔法が効かなかったんだろう。手首を押さえながら痛そうにしてる教官の喉元へ、刃を突きつけて問う。
「なんであたしを収監したか、教えてもらえますか?」
「い、言っただろう! 麻薬の所持――」
言葉が途中で止まったのは、あたしが切っ先を押し付けたからだ。
「それは許可を取ってます。理由は別にありますよね?」
あたしの問いに返ってきたのは、別の言葉だった。
「こ、こんなことをして、タダで済むと思ってるのか。た、退学させるぞ」
「どうぞ。でもそうなったら、うちからの寄付はなくなります。あと政財界へ今回の件、もちろん流します」
教官の顔が引きつった。
シエラの資金繰りは決して楽じゃない。本校生の働いた分と、卒業生を軍事関係へ斡旋した仲介料、それに富裕層向け箔付け校の高額な授業料と寄付。その辺でどうにか賄ってる状況だ。だからあたしの親からの多額の寄付は、本校が自由に使える貴重な資金源だった。
そんな状況で、寄付が無くなったら。
加えて師弟を箔付け校に大量に入学させている、政財界の親たちにまで「生徒に手を出した」と流されたら、間違いなく経営は大変なことになる。