Episode:69
「何があった!」
さすがに壁を壊した音で気いたらしい。もっとも気づかれるために音を立てて破壊したのだから、来てくれないと困るのだけど……。
「居ないぞ!」
「早く扉を開けろ!」
「か、鍵が」
やり取りにちょっと呆れながら、あたしは空中へ身を躍らせた。
一気に近づいてくる岩場。けどまだ浮遊魔法の効果が残ってて身体が軽いから、たいした衝撃もなく着地する。
辺りを見回すと、右手前方に船着場の小屋が見えた。だったら最初に判断したとおり、ここを右へ行けば船着場から管理棟へ向かう坂に出るはずだ。
さすがに暗いから走るのはやめて、それでも急ぎ足で岩場を歩く。
――教官たち、来るかな?
あたしが窓を破って外へ逃げたと分かれば、きっと坂を封鎖するはずだ。
でもそれが狙いだった。
今島内にいる教官は、そんなに多くない。だからイマドの捜索に当たってる数も限られてるはずだ。
その状態であたしが暴れれば、当然二手に別れるしかない。そうなればイマドの負担が減る。
転ばないように気をつけながら岩場を抜けて、桟橋から続く道へ出た。
けどそのまま進まず、道の脇に隠れる。絶対に教官たちはここに非常線を張るはずだ。
息を潜めて待っていると、思ったとおり話し声が聞こえてきた。
「外へ出たなら、通るのはここだけだ。捕まえるぞ」
「はい」
捕まえるなんて、まるであたしが害獣みたいな言い方だ。
今すぐ飛び出したいのをガマンして、茂みの中から様子をうかがう。
声から判断して、教官たちは数人ってとこだろう。どんなに多くても10人は超えてないはずだ。これなら何とかなる。
教官たちが坂の中腹を塞ぐのを待って、あたしは飛び出した。
「ルーフェイア=グレイス、何故逃げ出した!」
大きな声で教官の一人が問いかけてきたけど、そのまま走る。
「止まれ! イマドをお前の代わりに収監したぞ!」
この言葉も無視した。
ついさっき、イマドが捕まらないと増援要請していたくらいだ。それからいくらも経ってないのに、彼が捕まってるわけがない。
だいいち彼は他人の考えを読める。だから教官たちの逆を突いて逃げ回るなんてお手の物だ。