Episode:67
念のためだろう、最初に石が落ちてきて、次に太刀が落ちてくる。
「――セレスティアル・レイメント」
小声で魔法を唱えて発動させると、太刀の落ち方がゆっくりになった。それを上手く待ち構えて受け止める。
魔法の効果が切れると、ずしりと重い感触が手に伝わった。けどすぐ、牢の隅の暗がりへと押しやる。このまま持っていて、教官に取り上げられるのはイヤだった。
けど肝心の教官はなかなか戻ってこない。どうも階段を上がりかけた辺りで、通話石で誰かと話してるみたいだ。
耳をそばだてる。
「……あ、そうですか、じゃぁまだ……ええ、こちらは大人しいです。代わりに収監が効いたかと」
要するに教官、あたしが牢の中で大人しくしてると言ってるんだろう。
――好きでやってるわけじゃ、ないのだけど。
教官も言ってる通り、イマドを身代わりにするって言われてなきゃ、こんなとことっくに出てってる。
話は続いてるみたいだった。
「え? では捕らえていないのですか?」
教官の意外そうな声。予想外のことが起こってるらしい。
「……それだと、8年生のトップ陣は軒並みですか。ずいぶん逃げましたね」
8年生と言ったらあたしたちのことだ。そのトップ陣って言ったら、あたしと同じAクラスの誰かだろう。これだとイマドやシーモアは、上手く逃げおおせたかもしれない。
「ええ、はい。こちらは大人しいので、捜索に行けるかと。分かりました」
どうやらこの教官、ここを留守にして誰かを探しに行くみたいだ。
話の続きに聞き耳を立てる。
「大丈夫です、身代わりの話が効いてますから。ええ、ですから早く、彼を捕らえた方が」
しめた、と思った。
この言い方だと、たぶんイマドは逃げ出してる。しかも全く捕まえられなくて、応援が呼ばれたみたいだ。
これならあたしがここを逃げ出しても、代わりにイマドを収監なんて出来ないだろう。むしろここを逃げ出して暴れたほうが、イマドが捕まる率が減るはずだ。
教官が応援に行くまでは大人しくしてて、そのあとここを破壊することに決める。
「まったく、てこずらせて」
ぶつぶつ言いながら教官が戻ってきた。そして牢の中を覗き込んで言う。
「少し席をはずすが、大人しくしてるんだぞ」
「……はい」
なんでそんなことをあたしに言うんだろうと思いながら、素直に返事だけはした。早く行ってもらうにはそのほうがいい。
教官は満足そうに頷くと、牢から離れる。