Episode:66
どっちにしても外が暗くなったし、適当なところで行動を起こしたほうがいいかも知れない、そう思っていた矢先。
こつん、と何かが音を立てた。
驚いて辺りを見回す。けど暗くてよく分からない。
気のせいだろうか、そう思ったとき、今度は何かがあたしに当たった。そしてコツコツっと音を立てて床を転がる。
――石ころ。
当たり前だけど、こんなものが勝手に空を飛ぶわけ無い。何かの弾みで剥がれた天井のかけらが落ちてきたか、誰かが投げ入れたかだ。
教官の様子を伺う。
落ちてきた石ころに気づいた様子はなかった。それどころか、なんだかずいぶんそわそわしてる。交代の時間が近いからだろう。
大丈夫そうだと判断して、あたしは教官に気づかれないよう無詠唱で魔法を発動させた。
使った魔法は雷系、狙いは鉄格子の外だ。それを石が落ちたのと同じだけ、つまり2回放ってみる。
ちょっと間を置いて、また石が落ちてきた。今度は2回どころじゃなくて、しかも間が長かったり短かったりだ。
聞いているうちに、頭の中に文字が浮かび上がる。信号の長短を文字に置き換える通信信号だ。
前線では光だったり音だったり、いろんな形でこれが使われてた。それと同じだから、考えなくても意味が分かる。
『無事か』
教官の隙をうかがう。せっかくのチャンスなのに、迂闊な行動で潰したくない。けど教官はこっちなんて全然見張ってなくて、しきりに時計を見たあと階段を上がっていった。
――教官があれでいいんだろうか?
なんだか複雑な気分だけど、居なくなってくれたのは助かる。あたしはすぐに魔法で返した。
『ルーフェイア、無事』
教官が居なくなってしまったから、かなり大っぴらにやれる。
またすぐに外から応答があった。
『太刀、いるか』
外にいるのが誰か分からないけど、あたしのことをよく知ってる人みたいだ。
ただ何となく、イマドじゃなさそうな気がした。だいいち彼なら、あたしが居るってわかった時点で太刀を放り込んでる。
シーモアたちかな、そんなことを思いながらまた返した。
『落として』
窓はかなりの高さがあるけど、魔法で減速させれば受け止めるのは簡単だ。ヘタに他の方法でノロノロ降ろされるより、よっぽど早くて確実だった。