Episode:64
「……もしかすると、地下牢かもしれませんね」
学院長が考え込みながら言った。
「この学院に、そんなものあったんですか?」
「ええ。何しろここは古いですからね、特にこの管理棟にはいろんなものがありますよ」
確かにそうかもしんない。なんせあんな隠し通路が縦横に通ってるくらいだ、地下牢のひとつやふたつ、あってもおかしくない。
「じゃぁここの地下牢行けば、ルーフェいるかもしれないってこと?」
「分かりません。けれど見てみる必要はあるでしょうね。というか本当にルーフェイアがそこに閉じ込められているなら、急いで出してあげないと……」
なんでか、学院長がやけに焦ってる感じだ。
「学院長、あの子ならだいじょぶですよ。万が一教官が手出しても、返り討ちだと思いますし」
「ルーフェじゃそだよねぇ。というかあの子じゃ、牢壊して出てきそう」
「それが怖いんです」
学院長が言う。
「万が一牢を壊しでもしたら、この建物がどうなるか。崩れないまでも、古い時代のものでけっこう貴重なんですよ。なのに傷が……」
「あー、そっちですか」
思わずナティと苦笑する。
たしかにルーフェ、イザとなったら建物のひとつやふたつ平気で壊す。しかもそうなったらそれが重要な国の建物だとか、そんなのは一切お構いナシだ。
にしても学院長、ちっともルーフェの心配してないのが。
「ともかくそういうことじゃ、学院長、急いで行きません? あの子じゃもういつ動き出すか」
「そだよね。ルーフェって案外思いっきりいいとこあるし」
ナティの言うとおりだ。
ただその「思いっきりがいい」ところは、気の毒って気もする。あの子は前線なんてとんでもないとこで育って、出遅れが死に繋がるのをイヤってほど知ってるから、速攻で動くだけだ。だからもし普通に育ってたら、絶対にやらないと思う。
学院長が手早くお茶のセットを片付け始めた。
「ルーフェイアが仮に地下牢に閉じ込められたとして、何時間経ちましたかね……さすがにもうあの子でも、これ以上は待ってくれないんじゃないかと」
「もうかれこれ数時間だから、もう危ない気が……」
あの子じゃもっと早く動いたっておかしくないのに、ここまで待っただけでもある意味凄い。
「急ぎましょう、何かあってからでは――」
学院長がそう言ったとこで、なんか爆発音が響いた。
思わずみんなで顔を見合わせる。
「持たなかったみたい?」
「だね」
「と、ともかく行きましょう」
真っ青になった学院長が先に立って、あたしら隠し通路を駆け出した。