Episode:62
「副学院長の話、当然ですが前々から噂はあったんですよ。だから学院で使ってるのとは別に、通話石を用意しまして」
あたしは学院長をちょっと見直した。そんだけのもの――通話石はそう簡単に用意できるようなものじゃない――をわざわざしつらえてたなんて、やっぱりシエラの学院長だ。
「で、まぁ、一応それを信頼できる方々に渡しておいたんですよ」
「誰にです?」
好奇心に狩られて訊く。
「渡してある人ですか? でしたらムアカ先生に――」
何人かの名前が挙がった。みんな生徒から好かれてる人ばっかだ。
ただ、問題があった。
「学院長、今言った人たちってムアカ先生除いて、みんな演習島ですよ?」
「ええ、そうなんですよ」
ちょっと困ったふうに学院長が言う。
「私もそれなりに警戒してはいたんですが、まさか演習で教官が手薄になったときにやるとは思いませんで」
「思ってください」
前言撤回、これじゃ学院長甘すぎだ。
さすがに言う。
「相手の人数が少ないときに行動起こすって、常套手段じゃないですか。なのになんで、無いと思ったんです?」
「うーん、言われてみるとなんででしょうねぇ」
ダメだこりゃ。やっぱ学院長、どっか浮世離れしてる。
「そーゆーもんですよ。てか学院長だってシエラにいるんだから、そのくらいのこと気づいて下さい」
「そうですね、次はこうならないようにしますよ」
「次があったら困るんですけど……」
学院長、このままどっかに隠者として篭ったほうがよさそうな気がしてくる。
なんだか粘土に釘打ってるみたいで、言っても張り合いがない。
「そうですね。で、万一のときは連携を取るつもりでした。まぁ現状出来ていませんが」
院長頭掻いてるけど、ホントここは完全なミスだ。せめてもう少し、常に連絡が取れるようにいろいろ策講じときゃ、もうちっとコトが簡単に運んでるだろう。
ナティが横から口を挟んだ。
「要するに、その通話石を使えば、もしかしたら先生たちと連絡が取れるかも?っていうことですよね」
ナティは相変わらず、要点をまとめるのが上手い。
学院長が頷いたあと、視線を落とした。
「ただ先ほども言ったとおり、宝の持ち腐れですが」
あたしは考えた。通話石そのもののことは、間違いなくラッキーだ。ただ実質的には使えないんじゃ、アテになんてできゃしない。
だから今はそんなことより、確実に出来ることを考えたほうがいいだろう。