Episode:60
「歳を感じますねぇ、こうなると」
「しょーがないです、今の世の中って世知辛いから」
これじゃどっちが大人だかわかりゃしない。
「で、死んじゃったときはどーするんです?」
あたしは話を元へ戻した。
学院長がやれやれって感じで苦笑して答える。
「急死したときは、そういうときのために用意された別の封筒を開けて、中に書かれた人に連絡するんです。友人には次期学院長を指名して伝えてありますから、それを教えてくれます」
かなり用意周到だ。
ナティが更に面白がって訊く。
「それって、生きてるときに呼ぶ人と一緒なんですか?」
「ナティエス、もう少し言葉を選んだらどうなんです……違う人ですよ。同じだと、勝手に封を開けられた場合、誰だかを知られてしまうでしょう?」
話を聞きながら、ずいぶん考えられたシステムだと思った。
「それって、部外者が口挟む余地ないですよね」
「そうですね。まぁそうでもしないと、権力を欲しがる大人が多いのですよ」
自嘲気味に学院長が言う。
けどまだあたしにゃ疑問があった。
「学院長、そこまでしてたらいくら副学院長っても、なんも出来ませんよね? 自分がどんなになりたくたって、ひたすら指名待ちじゃ?」
「ええ、そうですよ」
答えを聞いて、更に疑問が大きくなる。
「それだと、なんだって副学院長、あんなふうにチビまで講堂に集めてるんです? そんなことしたって、自分がなれるわけでもないのに」
学院長が寂しそうに笑った。
「そこは逆ですね。彼は私を捕らえて、次期院長を自分にしろと迫るつもりだったのだと思います。ただ私が早々に察して姿を隠してしまったので、子供たちを人質にして引きずり出そうとしているのでしょう」
確かにそれなら辻褄が合う。
「ってことは、学院長が行ったらオワリじゃないですか」
「そうなります。けれど低学年の子達を、危険な目に遭わせるわけにはいきません。これから行きますよ」
「それ、相手の思う壺じゃないですか」
どう考えたって、副学院長の狙いはそれだ。チビたちを解放する代わりに、自分を次期学院長に指名しろって言うに決まってる。
学院長がため息ついた。
「私もそれは分かっていますよ。けれどあの子達を放ってはおけません。それこそ私を引っ張り出すために、何をされるか……」
まさにジレンマの真っ只中ってヤツだ。