Episode:06
辺りを見回したけど、ロープ代わりに出来そうなものもなかった。これだと、あの窓から出るのは難しいだろう。
「えっと……」
いつも持ってるポーチを開ける。けど学内でこんなことになるとは思ってなかったから、大した物は入ってなかった。
魔法で強化したごく細い紐と糸が入ってるけど、これで上り下りはちょっと辛いだろう。
そして気づく。
――なんであたし、素直にここ入っちゃったんだろう?
よく考えてみれば理由は言いがかりだし、やたらと学院に寄付してる母さんに知れたら大騒ぎになる。だからその辺を言えば、別に入らなくてよかったはずだ。
よっぽどあたし、気が動転してたらしい。
ただ、今それを言ってもムダだろう。自分で墓穴を掘ったようなものだけど、この状況を何とかするのが一番先だ。
それにしても、なんでわざわざ閉じ込めたのか、その理由が分からない。
麻薬所持って言ってたけど、あたしが持ってるのは要は痛み止めだ。
シュマーの体質のせいで、あたしはふつうの薬はまず効かない。だから必要な薬は自分で持ってないと、イザと言うときに困る。そういう理由だ。しかもこのことは学院に最初から伝えてあるし、学院長の許可も出てる。
だいいち今までずっと持ってたんだから、今頃問題になるほうがおかしい。だから、この罪状は後付けだろう。
だとしたら、何のために……?
教官たちが、あたしを自由にしておきたくないのは間違いない。何が理由かは分からないけど、うろうろされると困るんだろう。
けどそれだけなら、自室待機で済むはずだ。あまり楽しくはないけど、でもそう言われたら、あたしはいつも従ってる。
なのに閉じ込めてるんだから、自室待機じゃ足りないってことだ。「脱走したら代わりにイマドを収監する」って脅してまでいるんだから、よっぽど閉じ込めておきたいんだろう。
ともかく状況を整理してみる。
食堂でおやつを食べてたとこまでは、取り立てて何かあったようにも思えない。
強いて言えば、今日は先輩たちが本島に居ないってくらいだ。この時期はいつも夜間まで含めた大規模な演習をしてて、上級生と傭兵隊の候補生、つまりあたしたちより上が全部居なくなる。
――この時期狙われたら、ヤだな。
ふとそんなことを思った。
誰が狙うんだと訊かれたら困ってしまうけど、上級生と教官が居ないこの時期は、このシエラは要するに戦力不足だ。だからもし狙われたらロクに戦えない下級生ばっかりで、ひとたまりもないだろう。