Episode:59
けどあたしにゃ、まだ解せないことがあった。
「で、学院長。副学院長がここを乗っ取ろうとしてるとして。なんでわざわざ、チビたちを人質にしてんです? そんなもの、書類に無理やりサインさせたら終わりじゃないんですか?」
「やれやれ、スラム育ちは伊達ではないですねぇ。大人の世界をよく知ってる」
また苦笑して、学院長は話し出す。
「シエラの学院長の交代は、特殊なんですよ。書類だけではダメなんです」
「へぇ……」
これは初耳だ。
けど考えてみりゃ、ここは世界に名の知れたMeSなワケで。横取りしたいヤツはたくさん居るはず。だからそれ防止のために、いろいろ策があるんだろう。
「特殊って、どんななんです?」
好奇心いっぱいって顔でナティが訊く。
ミルの吹っ飛び方に隠れてあんま分かんないけど、ナティも実はかなりのじゃじゃ馬だ。普段も何食わぬ顔で、ちゃらっとあちこち首突っ込んでたりする。
学院長のほうもどういうつもりか、説明しだした。
「実はですね、事前に決めた友人2人の確認が必要なんです」
「何ですかそれ」
意味わかんないし。
学院長が笑って続ける。
「院長職を引き継いだ時点で、自分の友人2人に頼むんですよ。で、それを書いて封をしておく。引退の時には事前に手紙をもらうか来てもらうかして、封をした手紙と同時に開けるんです」
面白い方法だ。
「それ、院長以外には『友人』が分かんない、ってことですよね?」
「ええ。だから勝手に交代させられないんです」
封された書類に書かれてる友人と一致すれば良し、違ったら無効で交代ならずってことだろう。これだと確かに、部外者は手の出しようが無い。
けどこの方法、抜け道がある。
「だいたい分かりましたけど、それ、いきなり学院長が死んじゃったらどうなるんです?」
学院長が困ったような顔をした。
「やれやれ、本当に鋭いですね。というか、縁起でもないことを言わないでくださいよ」
「え、学院長ってそーゆーの気にするんですか?!」
ナティが更にヒドいことを言う。
「この年ですからね、そりゃ気にしますよ。それにしても今どきの子は、本当にマセているというか世の中を知りすぎてるというか……」
「えー、学院長がピュアすぎるんですよ」
追い討ちに、学院長がため息をついた。