Episode:58
ナティが考え込んだ。
「けどそれって、けっこう厄介じゃない? あれじゃチビちゃんたち人質同然だもの、先輩たちが首尾よく帰ってきても、手も足も出ない気がする」
「確かにね……」
あたしらの会話に、学院長が横から口を挟む。
「チビちゃんたちが人質とは?」
「あ、えっとですね、実は低学年が講堂に集められてて――」
ナティの説明に、学院長の顔色が変わった。
「それでは、あの子たちが! 行かなくては」
「学院長待った待った」
慌てて飛び出そうとした学院長をとりあえず止める。
「気持ち分かりますけど、闇雲に出るってマズくないです? てかあたしら、授業でそう教わりましたよ」
「そうそう、まず情報収集!って教えるし」
学院長が笑った。
「やれやれ、あなたたちにはかないません。けれどこのまま他の子たちを放っておけないのも、分かってくれますね?」
「ええ、それは」
学院長は、そんなこと出来る人じゃない。ただだからこそ、そこへ付け込まれてる気がすごくする。
あたしは確認してみた。
「学院長、副学院長が反乱起こして、ってのは間違いないんですよね?」
「ええ。まぁ情報が入ってすぐ隠れたので、副学院長かどうかは直接確かめていませんが」
学院長はそう言ったけど、これはたぶん間違いないだろう。
と、ナティが不思議そうに訊いた。
「学院長、すぐ隠れちゃったのに反乱ってどうして分かるの?」
「鋭いですね、ナティエス」
学院長が孫を見るおじいちゃんみたいな顔になって、ナティのことを褒める。
「実はですね、この話自体は今始まったことではないんですよ。かれこれ3年ほど、彼から引退を迫られてまして」
「それ困りますって」
思わずホンネが出た。
「学院長居なくなったら、教官たちやり放題じゃないですか」
「シーモア、あなたもよく見てますねぇ」
「普通分かりますって」
教官たちに二種類いることくらい、学院生なら誰でも――ルーフェは別――知ってる話だ。
ナティが確かめるみたいに言う。
「えーと。要するに前から副学院長と学院長は何となくケンカしてて、今日は向こうが本気になっちゃった、ってことか」
「実も蓋も無い言い方ですが、まぁそんなところですねぇ」
学院長が苦笑した。