Episode:57
「こうなってたんだ……」
屋上ってどこへ出るのかと思ったけど、顔を出した先は鐘楼裏のバルコニーだ。
管理棟は元々貴族の館だったってだけあって、屋根に鐘楼兼ねた小さい尖塔がある。で、表から見ると分かんないけど、裏の教室棟なんかから見るとバルコニーがくっついてた。出たのはそこだ。
「さぁさぁどうぞ。この奥ですよ」
木のくぐり戸が開けられて、石造りの尖塔の中へ入る。
「すごーい、ちゃんとした部屋なんだ」
「ええ。まぁ狭いですがね」
学院長の言うとおり、中はかなり狭かった。幅は尖塔と同じだけあるけど、奥行きは大人が手を広げたらやっとくらい。窓はナシ。けど魔光灯が点いてるから暗くは無い。
ただ天井はすごく高くて、しかも梯子を使ってロフトへ上がれるようになってたりするから、寝る場所には困らなそうだ。
たぶんここも隠し通路と同じで、要するに壁の中ってヤツだろう。
入ってきたのと反対側には日持ちのしそうな根菜類に、石化した食料があった。
「へぇ、学院長も食べ物石化させるんだ」
目にしたナティが言うと、学院長が笑いながら答える。
「いえ、ルーフェイアに教わりましてね。作ってもらいました」
思わずナティと顔を見合わせた。
「それって、あたしらが任務でアヴァン行った時、ルーフェイアがやってたマネですか?」
「ええ、その通りです。これは腐る心配が無くていい方法ですねぇ」
のんびり言いながら、どこからか学院長がポットを取り出す。そして丸い網カゴの中に炎の魔力石とお茶っ葉を入れて、ポットの中へ放り込んだ。
「お湯が沸くまで、少し待ってくださいね」
「はい。にしても学院長、なんでこんなとこに居るんです?」
あたしは疑問をぶつけた。
どう見たってここは隠れ家で、ふだん使う場所じゃない。なのにそんな場所に学院長が居るとか、どう見たって異常事態だ。
学院長が頭を掻いた。
「いやぁ、実は副学院長がちょっと反逆騒ぎを起こしましてね」
「学院長、それ『ちょっと』じゃないです」
間髪入れずナティが突っ込む。
でも、これでやっと何が起こったか分かった。いきなりチビどもをご飯時に講堂へ集めてみたり、イマドを追っかけ回してみたり、みんな副学院長の仕業だろう。
「えーっとつまり、副学院長が学院乗っ取ろうとして。で、先輩たちが居ない演習中を狙ったのかな?」
「それで正解だろうね。いくら教官たちだって、上級隊が束になってかかってきたら困るだろうし」
実際にやり合ったら、一部の妙なレベルの先輩とかが出てこない限り、まぁ教官たち負けはしないんじゃないかなっても思う。けどそれにしたって、かなり被害出るからヤだろう。