Episode:56
それにしても生徒に悪意――どうもそういう感じしかしない――持ってる教官がなんで子供好きの学院長の部屋の前に居るのか、その辺がどうにも解せない。
と、声がした。
「シーモア、ナティエス、こっちです」
驚いて振り向く。
「が、学院長?!」
視線の先に、見慣れた顔。階段脇の倉庫のドアが開いて、そこから手招きしてる。
あたしらも急いで、倉庫の中へ滑り込んだ。
「学院長、なんでこんなとこに」
「ちょっと待ってくださいね」
言って学院長はそーっとドアを閉めた。けど奥に魔光灯があるおかげで、真っ暗じゃない。
「足元に気をつけて。その右手の奥へ」
「はい」
言われたとおりに奥へ行く。っても狭い倉庫だから、大した距離じゃない。
学院長も来て、一番奥の壁に手をついた。
「うそぉ……」
ナティが声あげたのも無理ない。なんせ壁が横に動いたんだから。
「すっごい仕掛けですね」
あたしの言葉に学院長が答える。
「この学院は古い上に、元が貴族の住まいでしたからね。特に管理棟は、面白い仕掛けがたくさんあるんですよ」
「へぇ……」
初耳だ。
「さ、こちらへどうぞ。どうしてここへ来たか知りませんが、さすがに倉庫では落ち着かないでしょう」
そう言って、まず学院長が引き戸の内側へ入る。
「学院長、これって隠し通路ですか?」
「ええ」
学院長は慣れてるらしい。灯りこそあるけど、目印もなんにもない通路をすたすた歩いてく。そしてしばらく歩いた後、昇り階段になった。
「この先って、どこに出るんですか?」
ナティに訊かれて、学院長がにこやかに答えた。
「屋上ですよ。今お茶でも出しますからね。疲れたでしょう?」
その言葉聞きながら、やっぱこの人は違うと思う。チビどもをいきなり集める教官とは、ぜんぜん違う人種だ。
階段を昇りきったとこは行き止まりだったけど、学院長が頭の上、天井板をごそごそやったらパカっと外れた。