Episode:55
ドアの内側から聞き耳立てて廊下の様子を伺ったけど、人の気配はなさそうだ。
そっーとドアをほんの少しだけ開けて、それからあたしとナティ、2人して廊下へ出た。
囁きあう。
「学院長室、上だよね」
「階段で行こう。昇降台は教官たち使うから、たぶんヤバい」
足音を殺して、あたしら建物の端へ向かった。
管理棟は真ん中辺に昇降台、両翼に階段って造りになってるがある造りだ。で、教官たちはどういうわけか、降りるときもいつでも昇降台を使う。だから階段を使うほうが安全ってやつだ。
「2階まで一気に行こう。で、そこで様子見るんだ」
「分かった」
ナティに言った後、階段の様子を見てから、あたしは一気に駆け上がった。
すぐ後ろにナティが続く。長年なじんだ気配で分かる。
ひとつ階を上がったとこで、一旦階段から離れた。逃げ場の無い階段で教官たちに出くわすのは願い下げだ。
けど、これといった気配はなかった。それどころか建物の中全体が、やっぱりがらんとした感じだ。予想以上に出払っちまってるらしい。
「がら空きにもホドがあると思うんだけどねぇ」
「んー、あれじゃない。演習もあるから、そっちに行っちゃったとか」
「なるほど……」
それから首をひねる。
教官たちが何したかったか知らないけど、生徒を集めるにしろイマドを追い掛け回すにしろ、数は居たほうがいいはず。なのになんだって却って不利な、泊りがけの演習の日なんざ選んだのやら。
とはいえそのおかげでここまで忍び込めてるんだから、ありがたく思うべきだろう。
「行こう」
また様子を伺ってから、階段を駆け上がる。学院長の部屋は一番上の3階だから、ここを上がれば階段は終わりだ。
2人で昇りきって、壁の影から廊下を覗いた。
(シーモア!)
(分かってる)
廊下の向こうのほうに教官の姿が見えて、2人して慌てて引っ込む。
「あれ、見張り?」
「たぶん……」
学院長室の前には、2人の教官の姿。ドアの前で動かないから、まぁ見張りだろう。
「どうする?」
「うーん。学院長室はムリかもしらんね」
根拠はないけど、あんな感じの大人に捕まるのは絶対にヤバい。それだけは長年スラムにいたから分かる。