Episode:54
「ほんとに人いないね。そのほうがラッキーだけど」
「なんだかねー。あたしらみたいのに接近されるとか、ここの教官ども大丈夫なのかい?」
なんか違う方向で心配になるほど手薄だ。
「さて、どっから入るかね」
「いっそ、玄関から行っちゃう?」
案外怖いもの知らずのナティ、だんだん持ち前の度胸が表に出てきたらしい。あたしのほうがしり込みするようなことを平然と言い出す。
「まぁちょっと中の様子くらい見よう。何も考えずに突っ込んで掴まるなんて、さすがに馬鹿げてるだろ」
「そだね」
入ってすぐのところにどのくらい居るのか、それだけでも確かめたくて、壁に張り付いて必死に中を覗う。
と、動きがあった。何か中で話し声がして、バタバタと教官たちが出てくる。
「本当に見つかったのか?」
「分からん。だが確からしい」
そんな言葉を交わしながら、かなりの数が走ってった。
「……イマドでも捕まったかね?」
「そうかも。でもあいつ、そんなに簡単に捕まるかなぁ?」
「んー、けど相手が教官たちだからねぇ、何とも言えないよ」
ただ建物の中は、今まで以上に人の気配がない感じだ。今なら行けるかもしれない。
「ナティ、開いてる窓探そう」
「え? あ、そうだね」
明かりの点いてない部屋を選んで、あたしらは窓を次々確かめてった。
「ねぇ、シーモア、ここ開いてるみたい」
「ほんとかい?」
ナティが見つけた窓をそっと動かすと、確かに動いた。
「入ってみよう」
「気をつけてね」
「分かってる」
心配そうなナティを後ろに残して、あたしはゆっくりと窓を開けた。けど何の警戒装置も働いてないらしくて、これといった反応はない。
「まったく、無用心だね」
言いながら桟に手をかけた。一気に身体を引き上げて、乗り越える。
「大丈夫?」
「平気だよ、なんも起こってないし。あんたもおいで」
あたしの言葉に、ナティが続く。
「ホントだ、ぜんぜん平気だね」
「だろ。教官ども、のんき過ぎるよ」
まさかあたしら訓練生が、こんな形で来るとは思わなかったんだろうけど……それにしたって、教官がこんなことでいいんだろか?