Episode:53
「もしもよ? もしも管理棟で、誰も探しに来ない部屋があったら、いちばん安全ってことだよね? だって、まさか入り込むなんて思わないし」
「そゆこと。だから学院長室とか、案外安全な気がするんだがね」
「学院長室か……」
ナティがまた考え込んだ。
「もしも見つからないで、学院長室まで行けたとして。そしたら仮に学院長が居ても、絶対大丈夫よね。だって学院長、生徒のこと追いかけたりしないし」
「まぁ講堂に連れてかれるくらいは、あるだろうけどね。けど理由くらいは教えてくれるんじゃないか?」
何となく互いの視線が合って、両方で頷いた。
「行ってみようよ、せめて理由だけでも知りたいもん」
「あたしも今、同じこと考えてたよ」
冷静に考えりゃ、ずいぶん無謀な話だ。けど行って見つかったからって死ぬわけじゃなし、そう思うと大して怖いとも思えない。
それに何より、この騒ぎがどうして起こったかくらいは知りたかった。イマドが追っかけられてたことから見て、教官たちが生徒を目の敵にしてる感じだけど、なんでそうなったか見当もつきゃしない。
けど学院長なら、訊けばきっと教えてくれる。あの人はそういう人だ。
「行こうよ、シーモア」
「慌てなさんな、様子見て捕まらないようにだ」
「そだね」
茂みから茂み、じゃなきゃ茂みから建物の陰へ、見つからないように少しづつ動く。
その間、教官の姿は見なかった。たぶんイマドが騒ぎ起こしてるから、そっちへみんな行っちまったんだろう。追っかけ回されてるあいつにゃ悪いけど、このままあたしらが学院長室たどり着くまで、そのまま鬼ごっこしててほしいとこだ。
ほどなく、あたしらは管理棟にたどり着いた。暗がりに身を潜めて、建物のほうを見る。
「もしかして教官たち、ホントに出払っちゃってる?」
ナティの言うとおり、管理棟の周囲にも教官の姿は無かった。
建物も、明かり点いてる部屋のほうが少ない。もうとっくに辺りは暗くなってるわけで、わざと暗闇で行動する練習でもしてるんでなきゃ、明かりつけないでってのはないだろうし。
「まぁ全員ってこた無いだろうけど、でもかなりがどっか行ってんだろね」
どっちにしても、あたしらには好都合だ。
「行こう」
「うん」
何がどうなってんのか、それを知りたい一心で、見つかりづらい場所を進む。
ただ教官たち、よっぽど人手不足だったらしい。入り口の傍まで来ても、まだ人影がなかった。