Episode:50
◇Seymore
「お前達、なんでここに居る!」
後ろから声かけられた瞬間、とっさに動いてた。ポケットに手ぇ突っ込んで、煙玉を後ろの地面に叩きつける。
一瞬で背後に煙が広がって、あたしとナティはそれこそ走竜みたいに走り出した。
なんか後ろで激しく咳き込んでるけど、そいつは無視だ。
「どこ逃げるの?」
走りながらナティが訊いてきた。
「どこって言われても。教官が居なきゃどこでもいいんだけどね」
いま教官に見つかるのはヤバい気がした。なんでって言われても困るけど、なんとなくそんな気がする。
カンが間違ってるとは思わない。なんたってこのカン、何度もあたしらのこと救ってんだ。それが今日に限って間違いってこたぁ、さすがにないだろう。
少し走って、よさそうな藪を見つけて、慌てて二人で逃げ込む。
「あーもう、なにアレ」
「あたしに訊かないどくれ」
別にそういう意味でナティが言ってんじゃないのは分かるけど、思わずそう言っちまう。
「分かってるってばー」
「ごめんごめん、あたしも分かってる」
小声で囁き合ったあと、あたしらは顔を見合わせてちょっと笑った。気心が知れてるってのはいいもんだ。
それから一息置いて、ナティがまた小声で言った・
「でさ、あの講堂の騒ぎってなんだったと思う?」
「だからあたしに訊かないどくれ」
正直分かってたら、こんなとこで無様に逃げ回ったりしてない。
ナティが肩すくめて言った。
「だよね。けどほんと、何がどうなっちゃってるんだか……」
これには思いっきりあたしも同意だ。だいいちこんな時間にチビたち集めるなんて、正気の沙汰じゃない。たぶんメチャクチャな騒ぎになっちまうはず。
「それにしたって、なんでわざわざチビども集めるんだか。部屋から出るなったほうが楽だろうに」
何となく出た言葉に、ナティが答えてきた。
「もしかして、学院が攻撃されそうとか」
「まぁ、無いとは言わないけどね……だったらもう、先輩達が戻ってくんじゃないかい?」
ウソみたいな話だけど、シエラがどっかから攻撃されそうになったってのは、今までに何回かあったらしい。そして理由はだいたい、この軍事力なんだとか。
けどあたしにゃその辺がさっぱりだ。シエラがいくら実戦重視のMeSだっても、所詮は訓練生。正規兵とガチでやり合ったらまず負ける。何とかなるのは、上級隊の先輩くらいだろう。
その程度のものをどうにか潰そうだなんて、ずいぶん買いかぶられたもんだ。