Episode:49
「動映機、あったわよ。予備の通話石はいま出すわね」
「わーい、センセ、ありがとー」
言うやいなや、先輩は先生の手から必要なモノを奪い取った。そして止める間もなく、ぱっと外へ駆け出す。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
言っても先輩が訊くわけはなくて、あっというまにその姿は草むらへ消えていった。
「全くもう……こういうときだけ早いんだから」
腰に手を当ててちょっと外を睨みながら、先生はため息をついた。
それから、リティーナたちのほうへと向き直る。
「はい、これ予備の通話石よ。無くさないでね」
「わかりました」
受け取って、何か聞こえてこないかと耳を澄ます。けれど今は、誰の声も聞こえなかった。
「これ、どこと繋がってるんですか?」
「たしか……学院長と、あと何人かの先生だけじゃなかったかしら。今はあなたたちと、あのミルも持ってるけど」
「少ないんですね」
それがリティーナのいちばんの感想だった。
けれど、いまの状況だと悪くは無いはずだ。少なくとも、たくさんの教官が聞いているよりはずっといい。
何となくひとつ頷いて、通話石をポケットにしまい込む。
それからどう言おうとしばらく悩んで……リティーナは切り出した。
「先生、もっと予備、ありませんか?」
「あるけど、何にするの?」
不思議そうな先生に、意を決して言う。
「いえ、その、ミル先輩が他にもまだ、講堂に行ってない人がいるんじゃないか、って」
「確かにそうね。でも、どうやったら渡せるかしら……?」
「あたし行きます」
リティーナの言葉に、先生の顔色が変わる。
「ダメよ! 外は危ないって分かってるでしょ?!」
「だいじょぶです」
少女は言い切った。そして続ける。
「それに捕まっても、講堂へ連れてかれるだけです。危なくないです」
先生が答えに詰まった。
「先生、予備の通話石ぜんぶください。あたし、行きます。行かなきゃ助けられないです」
「……分かったわ」
ムアカ先生がついに折れる。そしてポケットから小さな袋を取り出した。
「これで全部。でも、絶対に無理しちゃだめよ」
「はい。――ニネット、ここで連絡係お願いね」
「うん、分かってる」
リティーナは袋をしまいこみ、入ってきた換気窓に手をかけた。