Episode:46
そして先輩は真っ黒な笑みを浮かべて言った。
「センセ、動映機と通話石、あるよね?」
「通話石は学院長から渡されてるのがあるけど、動影機はどうだったかしら……? 部屋になら、ぜったいあるんだけど」
「んじゃ、センセの部屋にいこー」
にこにこと言った先輩を先生が止めた。
「ダメよ、この状況で出たら、あなたたちも掴まるでしょ。私が独りで行って取ってくるから、あなたたちは待ってなさい」
「ぶー」
また先輩がおかしな声を出す。
でも、今はぜったいに先生の言うことが正しい。先生だけなら「忘れ物」で済むだろうけど、生徒が見つかったら連れて行かれてしまう。
「みんなここで大人しく待ってるのよ。いいわね」
「はーい」
「よろしい」
最後にちょっとだけおどけて、先生は診療所から出て行った。
先生が向かった「部屋」は、同じ島内にある教官たち専用の寮だ。ただ島内と言っても学生寮の先で、ここからは島の反対側に近いから、歩いて往復するとけっこうかかる。
早く戻ってくればいいなと思いながら、リティーナは同室のニネットのベッドに腰掛けた。
「足、下敷きにしないでね」
「うん」
先生が行ってしまうと、診療所の中はなんだかがらんとした感じだ。どこに何があるか分からないのも手伝って、少し不気味にさえ見える。
ずっと黙ってたら何だかおかしくなりそうで、リティーナは口を開いた。
「あのね――」
「ねぇねぇねぇねぇ、そこの2人聞いてくれる?」
言いかけたところで、先輩が横から割り込んできた。
「えっと、何ですか?」
「うん、センセの前じゃ言えなかった、とっておきの話」
リティーナは思わずニネットと顔を見合わせた。この先輩の「とっておき」は、良くないことの気がする。
かといって先輩の話は無視できないのが、後輩の辛いところだった。
「とっておきって、何ですか……?」
本当は聞きたくないなと思いながら、先輩に訊く。
先輩は以外にも級にまじめな顔になって、リティーナたちに話し始めた。
「さっきも言ったとおり、今このシエラ、副学園長のせいで大変な状態になってるよね」
「はい」
それは言われなくても分かる。リティーナの知っている限り、こんなことが起こったのは初めてだ。