Episode:44
「さっきからちゃんと言ってるのに……だからね、生徒が人質なのが、学院長がいちばん困るの!」
「――なんで初めからそう言わないの」
またまたため息をつきながら、先生がこめかみを押さえる。たったこれだけのことにとんでもない回り道で、隣で聞いているリティーナでさえ頭が痛くなったのだから、相手をしていた先生はなおさらだろう。
けれどようやく、先輩が何を言いたかったか分かった。
先生が考え込むように腕組みしながらつぶやく。
「つまり、生徒が人質だと学院長は身動き取れない……ましてや殺すと脅されでもしたら、従うしかない。これを回避するには、人質を取り返さないとダメ……」
「そうそう、簡単でしょ」
その簡単なことを混乱させたのは先輩だ、そうリティーナは思ったけれど言えなかった。やっぱり先輩にそんなことを言うのは怖い。
けれど当の先輩のほうは大はしゃぎだった。
「あとは、どっかーん! で人質取り返せばいいだけー」
「それが簡単だったら、誰も悩まないわよ。相手は教官たちで、講堂に集められてるのは下級生、上級生は居ない。どうやって対抗するの?」
「んー、数の暴力?」
首をかしげながらいたずらっぽい笑顔で言う先輩を、ムアカ先生がたしなめた。
「あなたねぇ。いくら生徒が多いって言っても相手は本職よ? 返り討ちがいいところだわ」
「えー、出来ないと思うけどなー」
のんびりと先輩が言う。
「どうして」
「だってもしそんなことして外に知れたら、学院の経営、傾いちゃうもん」
「あ……!」
リティーナはもちろん、先生もはっとした表情になった。
何故か勝ち誇ったふうに先輩が言う。
「シエラの経営、先輩たちの稼ぎと身代金と、あと本土のお金持ち校の親の寄付で、なんとかやってるでしょ。なのに本校で大スキャンダルあったら、お金持ち校の生徒はみんな辞めちゃうと思うなー」
言われてみればそうだ。
シエラは本校のほかに、いくつも分校がある。その中にはシエラと言っても名前だけの、「お金持ち専用」の分校が幾つかあった。
上級隊の先輩たちは「金持ちのお遊び」とバカにしている。ただ兄が言うには、そういう人たちの親が寄付してくれるお金がものすごく多くて、それで自分達の服や何かが買えるのだそうだ。
お金のことにはあまり詳しくないリティーナだが、そんな人たちがシエラを嫌がって辞めてしまったら、たちまち大変なことになるくらいは理解できる。きっと学校は、とても貧乏になってしまうだろう。