Episode:40
「あの、あたしさっきまで、船着場の小屋にいて。そこのおじさん、学院長は島の外へ行ってないって」
うんうんと先輩が頷いた。
「だとすると学院長は、この島のどっかと。どこかなー」
分かれば苦労してない。そう思ったがリティーナは言わなかった。先輩にそんなことを言うなんてよくないし、何よりこの先輩、言っても聞いてくれなそうだ。
そしてその感想を裏切らず、先輩はひとりで勝手に喋っている
「んー、やっぱありそうなの、『秘密の場所』?」
「え、あそこですか……」
秘密の場所は、学院生に代々伝えられている場所だ。
と言っても、何か特別なものがあるわけではない。訓練施設の奥にある何の変哲もない砂浜だ。ただそこへ行く道がなく、訓練施設の隅に出来た塀の破れ目から半分ジャングル化した林の中を通って、崖を降りないとたどり着かない。
そのおかげで見回りが来ることもなく、いろいろと教官に知られたくないことをする場合に、こっそり生徒達が使っていた。
とは言え魔獣が放たれている――訓練用といってもホンモノ――の中を抜けていくので、時々事故はある。だから低学年のリティーナにしてみると、行くのは命がけの場所でもあった。
先輩が大きく頷いた。そして大きな声で言う。
「やっぱりどう考えても『秘密の場所』! あそこならバッチリだもん」
「ちょっとミル、あなた静かに――」
慌ててムアカ先生が止めたが遅かった。外まで響くほどの声が、教官に聞こえたようだ。
診療所の入り口で、遠ざかっていく足音が聞こえた。
「まったくもう、ミル、あなたどうするつもり?」
「えー? あたし何にもしてないしー」
しらばっくれる少女をムアカ先生が叱る。
「そんなワケないでしょう! いま大きな声で言ったじゃないの。これじゃ学院長が……」
「あれ? あたしどこかなんて、ハッキリ言ってないよー。だいいちセンセ、『秘密の場所』ってどこ?」
「どこって……」
そこで先生が言葉に詰まった。
「そういえば『秘密の場所』って名前は聞くけど、どこだか知らないわ」
「でしょでしょ」
先輩が得意げに胸を張った。
「みんなで隠してたから、教官じゃ知らないはずー」
「確かにそうかもね……」
先生がうんうんと頷きながら考え込んだ。
「ともかくそういうことなら、早く学院長と合流しないと」
「しなくていいと思うー」
また予想もしなかった言葉が飛んできて、みんなで首を捻る。




