Episode:34
おじさんが優しく話しかけてきた。
「よくここまで来られたね。そうとう混乱してるのかな?」
「あ、はい。えっと、生徒全員集められてて、でも全員だからまだドタバタしてて……」
一生懸命伝える。
それからリティーナは、何を聞けばいいか気が付いた。
「学院、どうなっちゃってるんですか?」
「うん、反乱かな。どうも副学院長が、この学院を乗っ取ろうとしてるらしい」
「そんな!」
リティーナは副学院長は嫌いだ。いつでも優しい学院長と違って、副学院長はお金儲けは上手そうだけど、生徒のことが好きには見えない。
そんな副学院長がいちばん偉い人になったら、シエラはきっとひどいことになるだろう。
「そんなの、絶対ヤです」
「うん、私もだ。学院長は私の大事な友達だし、戦争で片腕、足も悪くした私にこうやって仕事をくれたんだ。恩がありすぎるよ」
この人は信じて大丈夫、そうリティーナは思った。なんでと訊かれたら困るけれど、ウソは言ってないと思うのだ。
このおじさんに頼めば、演習島まで連絡船を出してもらえるだろう。
「あの、お願いが……」
「なんだい?」
おじさんが優しい茶色の瞳で、リティーナを覗き込む。
どう言おうか迷ってから、少女は口を開いた。
「その、お兄ちゃんにこのこと、知らせたいんです」
「お兄ちゃん……あぁ、セヴェリーグか。今日は演習だったね」
「はい!」
兄の名前が出されて、リティーナは嬉しくなった。兄は上級隊だから、こんなところにまでちゃんと知られている。
けれどおじさんの顔が曇った。
「実はね、船がないんだ」
「え……?」
おじさんが頷いて話し始める。
「少し前に、副学院長が来てね。全ての船の鍵を持っていってしまったんだ。だから演習島へ行けないんだよ」
「そんな!」
いまの乗り物はどれも魔力石で動くが、最初は「鍵」と呼ばれる対の小さい魔力石を使って、外から起動させる必要がある。逆に言うとその鍵を無くしてしまうと、動かすことが出来ない。
もっとも魔力が桁外れに強い人だと、そんなものに頼らず強引に起動させることも出来るらしいが……自分にはもちろん、兄でもそれはムリだった。
だから、船での連絡はもうムリだ。他の方法を使うしかない。