Episode:33
「だいいちね、無理やり連れて行ってこの子が具合悪くなったら、どうするつもりなの!」
「……分かった。ならばここで見張らせて貰おう」
かなり危険な雰囲気だ。
(どうしよう……)
このまま行っても、きっとあの教官に捕まってしまう。
リティーナには、それが良いこととは思えなかった。理由は上手く言えないが、今は教官たちは避けたほうがいい気がする。
しばらく考え込んで、少女は兄に知らせようと思い立った。
兄のセヴェリーグは上級隊、その中でもトップクラスだ。そのおかげで妹のリティーナは、他の生徒から一目置かれていた。
その兄は、いま演習島で訓練の最中だ。
いま本島で起こってることは、たぶん兄は知らないだろう。
理由は簡単で、もし危険があると分かっていたら、兄は自分を放ってなどおかないからだ。それが違反だろうがなんだろうが構わず、確実に安全な場所に移動させてくれる。
妹のリティーナから見ても、兄は少々過保護だ。ちょっと姿が見えなければ大騒ぎをし、熱でも出そうものならケンディクの大病院に連れて行こうとまでする。
ただ、理由は分かっていた。
自分はよく覚えていないのだが、まだ小さかったころ家族と一緒に暮らしていた町は、突然戦火に巻き込まれたという。そして家族の中で生き残ったのは、兄と自分だけだったそうだ。
そんなわけで兄は周囲からもからかわれるくらい、自分には過保護だ。
その兄が自分を混乱の中に置いているのだから、知らないに違いない。もし知っていたら訓練など放り出して助けに来ているか、そもそも訓練をすっぽかして自分をどこかへ連れ出している。
だからリティーナは、船着場へと歩き出した。
診療所へ行くときと同じように、周囲に気をつけながら歩く。だが幸い、教官たちとは出会わなかった。
暗い坂道を降り、船着場の番小屋の明かりに思わず駆け出す。
「あの……」
戸を叩くと、中から声がした。
「誰だね?」
「あ、えっと、リティーナ=マルダーです。その、3年生のAクラスです」
かちゃかちゃと音がして鍵が開き、扉が開いた。
「お入り、早く」
「はい」
おじさんに促され、慌てて小屋の中へ入る。
「あの、えっと……」
連絡船を出して欲しい、それだけのはずなのに声が出てこない。