Episode:32
「もう、教官てば何考えてんの?!」
「お腹すいた! もういい、あたし部屋の食料持ってく!」
「あ、うちも持ってこ」
そんな会話を耳にした生徒たちが、あっという顔をした。
「そうだよね、持ってっちゃお」
「私、他の階にも知らせてこようかな」
「いっそ、今のうち食べちゃえ」
口から口へと話が伝わり、かなりの数の生徒が一旦部屋へと戻る。
リティーナも一度部屋へ戻った。保冷庫に入っていたソーセージとチーズとミルク、それにテーブルの上にあったパンを急いで食べる。それから怪しまれない程度の小さいポーチに、飴玉やビスケットやチョコレートを入るだけ詰め込んだ。
『もう一度言う。下級生は全員、速やかに講堂へ集合せよ』
また通話石から声が聞こえた。さっきよりイライラした感じだ。
もう行かないと危険、そう感じてリティーナは部屋を出た。だが階段の途中で人にぶつかり、足を踏み外す。
「痛たた……」
「だ、大丈夫!?」
周囲が驚いて声を上げる。
「何年生かな? 立てる?」
見知らぬ上級生が手を貸してくれた。
「足首は?」
「だいじょうぶです」
痛かっただけで、大したことはなさそうだ。
けれど先輩のほうが驚いた顔をした。
「血が出てる!」
「え……?」
指差されたところを見ると、確かに長めの引っかき傷が出来ていた。
「あー、ここの釘じゃない? 前から危ないと思ってたんだ」
「いちおう診療所行って、消毒してもらったほうがいいかも。釘って良くないって聞いたもん」
周囲が口々に言う。
リティーナも最初は平気だと思ってたが、「良くない」などと聞くとさすがに心配になってきた。
「あ、あの、そしたらあたし、診療所に」
「うん、行ってらっしゃい。教官には言っといてあげるから」
親切な先輩に学年と組と名前を伝え、リティーナは途中で列を離れて診療所へと向かった。なんとなく不安で周囲をうかがいながら暗い道の端を行き……立ち止まる。
診療所の前で、教官富むムアカ先生とが押し問答をしていた。
「ともかくダメ! 具合の悪い子を、講堂になんて行かせられないわ」
どうやらこんなところにまで、教官たちの生徒集めは及んでいるようだ。
診療所へ入るに入れず、リティーナは物陰に身を潜めた。