Episode:28
「だ、だいじょぶか?」
「アーマル、気をつけろよ」
「そう言われても……」
何しろやったことないから、上手くいくわけがない。
「これじゃ僕達、ホントに島まで行けるかな?」
「分かんね……」
ヘタしたら外洋に出た時点で流されて、漂流するハメになりそうだ。
「い、一回戻るか?」
「うん、僕もそれがいい気がする」
知らせに行かなきゃいけないのは確かだけど、自分たちが遭難したら目も当てられない。
その時、水しぶきが上がった。
同時に何かが笑うような、不思議な音。
「な、なんだ?」
「アーマル、あそこ! デルピスだ」
言われて振り向くと、差し込んだ月明かりに照らされて、水面にデルピスが頭を出してた。
「さっき、ジャンプしたやつかな……?」
「た、たぶん。イマドと遊んでたし」
こうしてみると、かなりデカい。俺たちの倍くらい身の丈がありそうだ。
そいつがまた、笑うみたいな声たてながら近づいてきて、舟の周りをぐるぐる泳ぎだした。
「何してるんだろう」
「俺に訊くなよ……」
イマドならともかく、言葉が通じないヤツの考えてることなんて分かるワケない。
でも、ヴィオレイはそう思わなかったらしい。
「おーい、お前さ、もしかしてイマドの友達なのか?」
海の中に向かって話しかけてる。
と、デルピスが回るのをやめた。そして舟の近くに寄ってくる。
「あのさ、僕たちこの先のえっと……ほら、あの島まで行きたいんだ」
ヴィオレイが洞窟から見える演習島を指差すと、また笑うみたいな声がした。
「通じてんのか?」
「通じてると思うよ。だってイマド、いつも普通に話しかけてるし」
それとこれとは絶対違う……俺はそう思うけど、ヴィオレイはそう思ってないみたいだ。
「あのさ、お願いがあるんだ。この綱引っ張って、僕たちを連れてってくれないかな」
言って舟を岸に舫ってた綱をヴィオレイが差し出すと、デルピスが咥えた。
「ほら、やっぱり通じてるんだよ!」
「信じらんねぇ……」
それとも人間が気づかなかっただけで、頭がいいデルピスたち、ずっと昔から俺らの言葉が分かってたんだろか?