Episode:27
そりゃ授業で一応、船に乗ったことくらいはある。でも波のない湾の中で一回りする程度で、外洋へ出たことなんてなかった。
「ど、どうしよう?」
「やるっきゃないだろ。通話石使えねぇもん」
まず船に乗り込んで、前に教わったことを思い出しながら備品を確認してみる。けどやっぱり動力はなくて、あるのは櫂が1組とと木で出来た幾つかの救命具だけだった。
「あのオジさん、本当にこれで行く気だったのかな?」
「いやまぁ……慣れてる人なら行けるんじゃねぇかな……たぶん」
自信ないけど、大昔の人は動力のない船で海を渡ったって言うから、島と島の間くらい行けるだろう。
「どうやって漕ぐんだっけ?」
「その前に、綱解かなきゃダメじゃね?」
右往左往しながら一つ一つ進めてく。それでもしばらく経ったころには、2人で漕ぎ出せる状態になった。
「綱、外すぞ」
「う、うん」
これ解いたら最後、もう戻れなくなるんじゃないか。そんな不安を押し殺して、杭に舫ってあった綱を解く。
ゆら、と船が揺れた。
「こ、漕がなきゃ」
「ああ」
櫂を両手に持つ。
「ヴィオレイ、オマエ舳先に座って見ててくれ」
「わ、分かった」
櫂を漕ぐと進行方向に背を向けることになるから、誰かに見ててもらわないとちゃんと進めない。
前に実習したとおりに漕ぐと、イヤになるくらいゆっくりだけど、船が動いた。
「すごい! アーマルやるじゃん、進んでるよ」
「そ、そうか?」
これなら行けるかもしれない。
けどそう思ったのもつかの間、船が斜めに進みだした。
「右、もっと右、ぶつかる!」
「こ、こっちか?」
「反対だよ、それは左!」
ヴィオレイと俺が反対方向を向いてるから、左右が違って混乱する。
「うわぶつかる!」
次の瞬間、鈍い音がして俺たちは壁に突っ込んだ。
反動で船が揺れて、危うく落ちそうになる。