Episode:122
◇Sylpha
「やれやれ、エライことになっちゃったねー」
口調ほどには感じてない声で言ったのは、ヴィルシアことヴィル。
「エライことというより、くだらないこと、だと思うわね」
タシュアに負けない毒舌家のシェリーが酷評する。
「どっちでもいいけど、私部屋に帰りたいなぁ」
ある意味いちばん妥当なことを言ったのはディオンヌだ。
3人とも私と同じクラスのうえ上級隊のメンバーで、Aクラスには女子が少ないこともあって、一緒によくいる間柄だった。
「でさ、結局どうなってんの?」
「ヴィル、またあなた話を聞いてなかったのね」
いつものやり取りが始まる。
ヴィルは性格も行動も前衛型、敵でも問題ごとでもともかく突っ込んで行って、蹴散らして解決するタイプだ。一方のシェリーは知能型で、物事を理詰めで考えて淡々とこなして成果を出すタイプだった。
一見水と油の二人だが、これが仲がいいというのだから面白い。
目の前ではじゃれ合いが続いていた。
「話もなにもカーコフ先生、 ってことと船が無いってコトしか言わなかったじゃん」
「それだけ聞けばわかるでしょうに」
「分かるほうがおかしいよ」
ヴィルが言い返し、続ける。
「そりゃぁ、今どーなってんのかは分かったよ。でもさ、なんでそんなことになっちゃうわけ? ワケわかんないんだけど」
「分かるわよ」
シェリーに言い切られて、ヴィルは不満顔だ。
もっとも頭脳派のシェリーと違って、ヴィルはともかく頭を使うことが苦手だ。テストも筆記は毎回追試、いつだったかは追試の日時まで忘れてしまい、追々試でやっと受かっていた。
そんな彼女だから、僅かな情報から類推させると大抵途中で行き詰まる。
――武器を手に前線出ると、非常に優秀なのだが。
機転も利くしとっさの判断もいいし、直接戦闘は文字通りトップクラス。あれだけ上手く敵を捌いて分断までするのに、なぜ「お勉強」だけできないのか本当に不思議だ。シェリーはよく
「ヴィルは頭でなくて身体で考えてる」と言うが、本当にそうなのかもしれない。
まだ「分からない」と言うヴィルに、シェリーが説明を始めた。
「まず、私たちはここから出られない。それは分かる?」
「そのくらい分かるってば」
ヴィルが仏頂面になる。さすがに馬鹿にされたように感じたのだろう。
まぁタシュアに負けぬほどの毒舌家のシェリーは、それを承知でわざと言っているのだろうが……。