Episode:120
ミルとしてはそんな騒ぎは無視していいんじゃないか……などとも思うが、世の中そうは行かないらしい。
まぁそのおかげでコトがやり易いのだから、文句はないのだが。
それからミルは通話石を取り出した。
(誰か居るー? ミルちゃんだよー)
小声で話しかけると、すぐ応答が来た。
(ミルドレッド、無事でしたか)
(あ、がくいんちょーだ。はーい、ぶじでーす)
そして外の教官に気づかれないよう、らしくないてきぱきとしたやり取りで、彼女は状況を聞きだした。
曰く、同じクラスの生徒はけっこう教官の手を逃れたようだ。ルーフェイアも脱獄したと言うし、イマドも逃げ回っているとか。シーモアとナティエスは学院長と一緒だし、アーマルとヴィオレイにいたっては訓練島にまで行っている。
(みんな楽しそうだなぁ……)
仲間たちが聞いたら抗議しそうなことを思いつつ、さらに状況を聞く。
そしていくらかのやり取りで、首謀者は副学院長らしいことと、どうもお金が絡んだらしいところまで聞き出した。
(……うーん?)
よくある理由だが、どうも引っかかる。
今回の一連、上級生が泊りがけの演習のときを狙ったりルーフェイアを投獄したり、下級生を一堂に集めたりと、一見すると用意周到だ。
だが、そもそもの目的がピンとこない。
仮にお金が必要だとして、なぜ学院を乗っ取る必要があるのか。乗っ取って学院長職を交代するにしても、他校は納得するのか。交代したとして、学園は維持できるのか。
だいいちお金が必要だとしても、シエラ本校の副学院長だ。けして薄給ではないはずだし、転職すればもっと高給取りになれるだろう。
その他も考えれば考えるほど、メリットよりデメリットのほうが多い。
(こんなじゃ、ふつうはやらないよねぇ……)
ミルの知る限り、人は自分にとって何らかのメリットがあるときしか動かない。
ただその理由が多種多様で、他人のために動くことが楽しいからというメリットだったり、お金が欲しいだけだったりするから、複雑に見えるだけだ。
だとすると、副学院長のメリットはなんなのか。
(何かぜったい、隠してるよね)
一見お金か名誉欲しさに見せかけて、実際の理由は違う。その線がいちばんありそうだ。
――あるいはこの騒ぎそのものが、ただの茶番か。
それにしてはやっていることが大掛かりな気がするが、絶対に「無い」とも言い切れない。何よりそう考えると、出来そうも無いことを始めたことに納得が行く。