Episode:119
「チェック甘いよねー」
まぁ「こんな」場所をボディチェックと称して触ろうものなら、盛大に大騒ぎするつもりだったのだが。
学院はその性格上、女の教官がかなり少ない。しかも今回、見張りをしている教官たちの中に、その数少ない女性陣の姿は無かった。きっと女の先生たちは子供に手を出すのを嫌うから、最初から頭数に入れてもらえなかったのだろう。
ただそれが隙を生んでもいた。男の教官では年頃の生徒のボディチェックなどすると大騒ぎになるから、全身丁寧にとはいかないのだ。
それにミル、ここへ連れてこられた段階で一つ武器を渡している。加えてそれなりの後ろ盾を持つ彼女には、教官たちも及び腰だ。だからそれ以上は探さなかったのだろう。
二つに割れたポーチの中は弾力のある素材で、その素材のくぼみに銃がはめ込んであった。大きさは手のひらくらい。だが見かけに反して威力はある。魔法で構造が強化されているせいだ。
――とはいえ、殺傷力はやはりタカが知れているが。
でも殺すことが目的でない今は役に立つ。
ポーチのくぼみにはまった銃を引っ張り出し動作を確認したが、問題なさそうだ。
(おっけーおっけー、万事りょーこー)
にまにまとほくそえんでいると、外から教官が怒鳴ってきた。
「まだ入ってるのか!」
なかなか出てこないミルに業を煮やしたのだろう。
「いい加減にしろ、もう終わっただろう!」
「終わってません!」
こちらも負けじと怒鳴り返す。
「っていうかセンセひどい、女子にそんなこと言わすの?! エッチ、変態!」
教官からはそれ以上返ってこなかった。さすがに分が悪いと思ったのだろう。
(セクハラさまさま~♪)
誰も見ていない小さな空間で、ぺろりと舌を出す。
男の教官たちがいちばん手を焼くのが十代の女子だ。何かと言えばすぐ騒ぎ出す上に、迂闊に持ち物にも触れない。
しかもヘタなことをすればすぐ「変態」だの「ロリコン」だののレッテルが貼られ、あっという間に知れ渡る。それも女子特有の交友関係の広さで、他の分校にまで知られてしまうからタチが悪い。
そしてミルは、自分がその一員だということを自覚していた。これを使わない手はない。
女子トイレに落書きしたのも、教官がそう簡単にはチェックできないからだ。
講堂に居る女子はおそらく100人ほどだが、それが入れ替わり立ち替わりトイレに来るため大抵誰か入っている。
そんなところへ男の教官がずかずかと入ってきたら、大騒ぎになること請け合いだ。