Episode:117
◇Mil side
夜になるとまだ冷える季節、講堂はけして暖かいとは言えなかった。だから、みんなぴったりと身体を寄せ合っている。
夕食はまだ来ない。水は自由に飲めるしトイレも行けるが、肝心の食事が来ない。
(何考えてんのかなぁ?)
それがミルの正直な感想だった。
大人というのはとかく分からない。ミルは心底そう思っている。
正確に言うと、本音も建前もよく分かる。だがなぜいろいろと、意図と違う結果になることをあえてするのかが分からなかった。
何か信念あってのことなら、まだ理解できる。けれど見ていると、それでさえない。
(よくわかんなーい)
ニンゲンというのは、本当に謎だらけのイキモノだ。
だがそうは言っても、この講堂を支配しているのはそのニンゲンだ。だから謎だらけの行動をよく見抜いて予測して裏をかかなければ……などとは、ミルは全く考えていなかった。
(オモシロイことないかなー)
彼女の行動原理はこの一言に尽きる。
面白そうか、面白くなさそうか。やってみたいか、みたくないか。全てをこれだけで決めるのがミルだった。
そして今は、あまり面白くない。だから何か面白いことを見つけるか、さもなければ作るかだ。
どうやったらいちばん面白そうか、彼女はつらつらと考える。
面白くなさそうなことの筆頭は、たぶん現状維持だろう。寒くてお腹がすいたままなど、面白くないことこの上ない。
だとすれば、今の状況を変えれば少しは面白くなるはずだ。
(どうしよっかなー)
どうせやるなら派手なほうがいい。そのほうが絶対に面白い。けれど、何をどうやったら派手で面白くなるのか。
あれこれ考えて、ミルは立ち上がった。
「そこ、座れ!」
教官の1人が間髪居れずに命令してくる。
それに対してミルは言い放った。
「トイレ! もっちゃう!」
恥ずかしげもなく言われた言葉に、教官が言葉を失う。
「行っていいでしょ! 間に合わないー」
「い、行っていいが……もう少し、違う言い方はないのか?」
「ないですっ!」
きっぱり言ってミルは駆け出した。少々崩れながらも並んで座っている生徒達の間を抜け、講堂後方にあるトイレへ向かう。
入り口にも見張りの教官が居たが無視して中へ入り、空いているところを見つけ、ドアを閉めた。